「滋賀県」が「近江県」に改名?税収を補う仕組みづくりが急務
都道府県の中でも知名度が低いという悩みを抱える「滋賀県」が、「近江県」に改名するという話題が注目を集めています。名称が変わるとなれば、当然のことながら地元住民の間で議論が巻き起こります。例を出せば、明治期に福岡(藩)と博多(地名)のどちらを名称にするか、市民を巻き込んで大きな議論に発展したそうです。ご存知の通り、現在は福岡県福岡市になりましたが、駅名は土地の名残から博多駅となっています。
滋賀県での改名論議は、日本が直面している問題が市町村レベルに留まらず、いよいよ県レベルの課題になってきたということではないでしょうか。日本は少子高齢化により、住民人口が減っています。これは、市町村の死活問題でもあります。住民が減れば税収も減り、病院や交通インフラといった住民サービスの質を落とすことになります。少子高齢の人口減で住民が減るのは仕方ないとしても、税収を補うためには地域の外からお金を落としてもらう仕組みづくりが必要になります。
競争の激化により、差別化しようにも手詰まりの状態
とはいえ、単純に町おこし、村おこしといっても簡単なことではありません。観光客の誘致には、大変な工夫を要します。人は知らない場所よりも、メディアで紹介された場所に行きたくなるものです。そのためには、「そういえば、テレビで見たことがある」という程度の知名度を必要とします。
意外に「ブランド」は知っていても、産地までは知らないという人が多くいます。例えば、滋賀県といえば琵琶湖が観光のブランドです。しかし、琵琶湖は何県かと聞いてみると、答えられない人もいます。同じように、牛肉ブランドの「近江牛」は知名度が高くても、産地の「滋賀県」まで思い当たる人は少ないのでしょう。
そこで、ブランドを売り出したい自治体は、ご当地キャラやB級グルメの開発に予算を使って懸命になっています。しかし、それも効果が薄くなってきました。ご当地キャラにしても数が多すぎて覚えきれなくなり、B級グルメでも知名度はなかなか上がりません。競争の激化により、差別化しようにも手詰まりの状態なのです。では、どうすれば良いのか。ここに、滋賀県ならではの着眼点があります。
滋賀県は改名で、他県の競争から離れて異別化を実現する狙い
お金をかけず、競争もせずに滋賀県を有名にする。そのためには、異別化という方法を取ります。滋賀県の異別化が、「改名」というわけです。改名という話題の提供により、競争することなく全国に知れ渡り、話題を集めることができます。
滋賀県には、近江商人の三方良しという心得があります。「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」です。これを現代風にアレンジすれば「お金をかけず発信者良し」「話題を求めるメディア良し」「興味を持たれて世間良し」です。滋賀県は改名で、他県の競争から離れての異別化を実現しようとしているのではないでしょうか。
(木村 尚義/経営コンサルタント)