「人食いバクテリア」に感染した人の数は過去最悪の数に
1980年代中頃、アメリカから手足の壊死を伴う非常に重篤な劇症型溶血性レンサ球菌による疾患が報告されました。我が国では1994年に、英国発のニュース「人食いバクテリア」として週刊誌でセンセーショナルに取り上げられて話題になりました。
国立感染症研究所によると、この感染症の患者数は、調査を始めた1999年以降2010年までで多い年でも年100人前後だったのが、12年以降は200人を超えたようです。そして、2014年においては、12月中旬までで263人となり、最悪だった12年(242人)を上回りました。東京、神奈川、愛知などで発症が多いとされています。
はっきりした感染源は明らかでなく、突然発症するのが特徴
通常の場合、溶血性レンサ球菌に感染しても無症候のことも多いのですが、まれに細菌が存在しない組織(血液、筋肉、肺など)に侵入し、急激に症状が進行して「重篤な疾患となることがある」とされています。
初期症状としては、発熱や悪寒といった風邪のような症状、四肢の疼痛(とうつう)や腫脹、創部の発赤などが見られます。その後、数十時間以内に「人食いバクテリア」といわれるゆえんである手足の壊死、それに伴うショック、多臓器不全などを併発し、死に至ることがあり、死亡率は約30%と細菌感染症の中でも高率です。
基礎疾患としてがん、糖尿病、肝疾患が挙げられていますが、一般に、はっきりした感染源や潜伏期間も明らかでなく、健康な30代以上(50代~60代がピーク)の男女に突然発症するのが特徴です。
感染すれば皮膚に赤い発疹。しかし、早期には発疹が出ないことも
一般的な溶血性レンサ球菌感染症では、喉の痛み・発熱・発疹などの症状が出ます。この際の喉の赤さは真紅で、周辺にもそれが砂粒のように点々と広がることが特徴とされ、さらに皮膚にも赤い細かい発疹の出現が確認できれば、ほぼ診断が可能とされています。しかし、感染早期には発疹が出ないことも多く、診断に難渋することも多いようです。
溶血性レンサ球菌感染症では通常、抗生剤が奏功し喉の痛みや発疹などは治まりますが、扁桃腺に慢性の炎症を起こすこともあるので、溶連菌感染症と診断された際には、抗生剤をきちんと内服することも必要です。
通常の風邪とは明らかに違うと思われる際は速やかに医療機関へ
また、子どもから大人まで、幅広い年齢層で感染しているため注意しましょう。予防にはインフルエンザと同様にうがい・手洗いやマスクの着用などが有効とされています。
そして、どの感染症でも同様ですが、それに対抗できるだけの免疫力をつけておくことも大切です。激しい喉の痛みや手足の腫れなど、通常の風邪とは明らかに違うと思われる症状が出現した際には、速やかに医療機関を受診するのが賢明です。
(佐藤 浩明/消化器内科専門医)