春の風物詩。若者が新人研修の一環として街ゆく人と名刺交換
3月に入り、来月には新入社員が入社して来るため、総務・人事担当者は準備に追われていることでしょう。受け入れる現場でも、マニュアルを見直したり新入社員に担当してもらう業務を洗い出したり、体制を整えている最中かもしれません。新しい仲間が増えるのは喜ばしいことですが、実際にひとりで業務をこなすようになるには色々と手がかかるので、育成する大変さもあります。
さて、街を歩いていると、スーツ姿の若者から名刺交換をお願いされたことはありませんか?聞くと「新入社員研修の一環として行っている」という返事です。「度胸をつける」といった意図だと思いますが、果たして研修としての効果はあるのでしょうか。
論理的思考力が高い若者に「習うより慣れろ」は効果が薄い
結論から言うと「効果はあまりない」と言わざるを得ません。一昔前の「とにかく足で稼ぐ」という営業スタイルが通用した時代では効果があったかもしれませんが、現在のマーケティング感覚から見ると、度胸だけではどうにもならないようにも思います。
さらに言うなら、現代の新入社員は、理屈に合わないことを押しつけられるのを嫌います。つまり、頭で納得しなければ動かないのです。それゆえ、「習うより慣れろ」的な育成は、まずうまくいかないでしょう。しかし、このことを「近頃の新入社員は扱いづらくなった」と捉えても意味がありません。
私の感覚ですが、大学時代に真面目に勉強してきた新入社員の割合は増えていますし、論理的思考力の高い若者もたくさんいます。しっかりとした新入社員育成計画を立てれば、モチベーションを高く維持できるでしょう。
会社の存在意義を感じてもらうことがモチベーションの源泉に
では、新入社員教育をどのように進めていけば良いのでしょうか。現代の若者は、昇進や昇格、他者との競争などでモチベーションを上げる傾向は低く、社会への貢献や自分の成長、あるいはコミュニティにおける絆などに高い関心があります。
まずは、会社の創業時からの歴史、経営理念、経営ビジョン、企業のミッションなどを深く理解してもらうことから始めましょう。
挨拶の仕方や名刺交換、社内設備の使い方など、覚えやすい事柄から教えていくことが多いですが、それらよりも前に、会社について理解してもらうことが大切です。会社の存在意義を感じてもらうことで、長期的なモチベーションの源泉となります。
まず自社のキャリアパスも説明。その後の研修効果は全く異なる
それから、自社のキャリアパスについても説明しましょう。社内のことがわからない状態で、明確なキャリアパスを描いてもらうことは不可能ですが、イメージだけでも持ってもらえるようにしておくのです。
これらの事柄をきちんと伝えてから、マニュアルによる教育や、部署を定期的に異動しながら業務を覚えていくという一般的な新入社員教育に移行すると、効果が全く異なります。
ただ単に仕事を教えるのではなくて、人生を応援するような気持ちで、ひとりひとりの新入社員を大事に育てることが何よりも重要と言えるでしょう。
(福留 幸輔/組織・人事コンサルタント)