外国人技能実習生の失踪事件が相次ぐ
働きながら技能を学ぶ、外国人技能実習生の失踪事件が相次いでいます。本来は途上国の青壮年が先進国の技術を習得し、自国の発展に寄与することが目的の制度ですが、このままでは、不法滞在者を誘発する悪しき制度だと思われかねません。では、制度の何が問題でこのような事件が頻発しているのか、考えてみましょう。
私が知っている一例を紹介します。ドンさん(仮名)は、ベトナムから技能実習生として来日し、3年間、建設現場で働きながら、日本の技術を身につけました。一度はベトナムに帰国しましたが、技能実習生として働いて貯めたお金で留学生として再来日し、現在、日本の大学の工学部で学んでいます。
彼のように成果を出している例がある一方、半年も経たないうちに日本で行方不明になってしまう実習生がいることは、報道にあった通り事実です。そこには、大きく分けて二つの原因があると考えられます。
多額の借金を背負って来日するケースが多々ある
一つは、実習生を送り出している機関の問題です。実習生として来日する多くの人が貧しい農村出身者で、日本についての情報はほとんどありません。彼らは機関の「3年間、日本で働けば、たくさんお金が稼げる」という甘い言葉を信じて日本にやって来ますが、中には実習生に多額の紹介料や保証金を要求する機関も存在し、実習生が借金をしてまで来日するケースが多々あります。
借金をした場合、日本での稼ぎが少なければ帰国しても返済の目処は立ちません。後述する理由によって仕事を放棄した場合、自国で借金に苦しむより、失踪してでも日本にとどまり、稼げる仕事に就こうと考えるのも無理はありません。こうした現状を鑑みて、受け入れる側となる日本は、儲け主義ではない技能実習制度の主旨を理解している機関から実習生を選び、また、自分たちの目で見て実習生を選抜することが大切になってきます。
今一度、制度の主旨を見直し、利用していくことが重要
もう一つは、受け入れる側の問題です。受け入れは、企業単独で行う場合と同業者組合などが監理団体となって、各企業に配置する場合があります。監理団体には、受け入れ後も技能実習が適正に行われているかを監督する義務がありますが、放置されているのが現状です。非人道的な長時間労働、最低賃金を下回るような賃金支払いが行われていたとしても、それを是正する役割が無いに等しいのです。企業側が、実習生を都合良く使える低賃金労働者と考えていたとしたら、制度の目的は果たせません。
私の知る限りでは、業種によってもかなりの差があります。建設系は比較的順調な一方、失踪者の多くが農業系の仕事に従事する実習生です。技能実習制度自体には、両国にとって多くのメリットがあるわけですから、送り出し側も受け入れ側も、再度制度の主旨を見直し、利用することが重要になってくるのではないでしょうか。
(小倉 越子/社会保険労務士)