マクドナルドが苦情や要望を受け付けるアプリ配信を発表
異物混入で大幅な来店客減少が続いているマクドナルドが、信頼回復のために苦情や要望を常時受け付けるスマートフォン向けアプリを配信すると発表しました。多くの企業が「クレームゼロ」という目標を掲げているものの、これは現実的にクレームをゼロにするということではなく、その実現に向けて日々、適切に仕事を行う企業努力を継続するということです。そして、その企業努力の積み重ねが、顧客との信頼関係を構築する重要な要素といえます。
かつて、多くの顧客は「一流企業は安心で安全な商品やサービスを提供してくれている」と信じていました。しかし、食品業界を例に見れば、2000年以降、立て続けに起きた食品偽装問題により、食の安全に関して多くの顧客が疑いの目を持つようになっています。マクドナルドの期限切れ肉使用問題に端を発した一連の騒動は、食品業界全体に対する顧客の不信感が、SNSの普及とあいまって一気に爆発したもののようにも思えます。
集まった顧客の声をどのように扱うかが重要
企業が顧客との信頼関係を取り戻すには、前述の通り日々、適切な仕事を行うことを愚直に積み重ねていくしかありません。そして、発生したクレームに対しては、迅速かつ真摯な対応が求められます。マクドナルドがクレームへの対応法の一つとして、苦情対応アプリを導入したことは非常に評価できる取り組みです。しかし、重要なのは、そこで集まった顧客の声をどのように扱うかにあります。
プレスリリースでは、「24時間対応します」「対応が必要なものはできるだけ早く連絡します」と謳っていますが、この記述ですでに企業主体の考え方が表れている点が気になるところです。「クレームの申告を24時間対応することを顧客が求めるか」「対応が必要なものか否かは誰が決めるのか」「あらゆる内容の膨大な数のクレームに対応可能か」など、問題点はいくつも浮かび、それが正常に機能しなければこの取り組み自体が新たなクレームを生む可能性すらあります。
信頼回復のために行うべきは基本行動を現場に浸透させること
また、このサービスは「当たり前のことが当たり前にできている」企業が、プラスアルファで行うサービスのようにも思えます。そもそも顧客には、すべての企業に対して「安心・安全な商品、サービスを利用したい」というニーズが存在します。そして、これは必要最低限なニーズであり、顧客視点で見ればできていて当たり前の事柄です。一方、できていないと判断された企業は、顧客からの信頼を失っていきます。
一度、信頼を失った企業が信頼回復のために真っ先に行うべきことは、目新しいツールを用いた対応ではなく、適切な仕事を行うという基本行動を現場に浸透させ、全社員が同じ考えを共有して仕事に取り組む文化をつくることです。それは、マクドナルドに限らず、すべての企業に対して顧客が望んでいることではないでしょうか。
(河津 佳江/コミュニケーション講師)