下鴨神社の境内に倉庫の建設計画が浮上
平成6年に世界遺産として「古都京都の文化財」が登録されましたが、これを構成している下鴨神社(賀茂御祖神社)の境内に、葵祭などで用いる道具や神宝などを保管するための倉庫建設が計画されているようです。
まず、世界遺産条約は、文化遺産や自然遺産を人類全体のための世界の遺産として、損傷・破壊等の脅威から保護することが重要との観点から、国際的な協力・援助の体制を確立することを目的とした条約です。締約国は自国内に存在する遺産を保護する義務を認識し、最善を尽くさなければなりません。また、その保護に協力することが、国際社会全体の義務であることを認識しなければならないものとされ、日本は平成4年に批准しています。
そして、「古都京都の文化財」は、世界文化遺産として登録されているのですが、そもそも登録される条件として、文化財保護法による指定(重要文化財、史跡、名勝等)を受けていることや、推薦対象の周囲に景観保護条例などで緩衝地帯が設けられているなど、国内において万全の保護措置が取られていることが要求されます。
倉庫建設は文化財保護法の規制を受ける
すなわち、世界遺産条約において特定の規制が要求されているのではなく、あくまでも国内法、あるいは条例に基づいて規制がなされるということなのです。下鴨神社における倉庫建設は、まず文化財保護法の規制を受けます。神社の境内が同法により国の史跡に指定されているため、現状を変更する、その保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならないものと定められ、違反した場合には罰則もあります。
次に、下鴨神社は都市計画法上の市街化調整区域に指定されているため、建物を新築するには原則として京都市長の許可が必要です。ただし、既存の建築物の敷地内において行う車庫、物置、その他これらに類する付属建築物の建築の場合には許可が不要とされているため、同法の規制外となる可能性があります。
基準に違反する建物を建築した場合の罰則も
一方、京都市は景観法に基づき市街地景観整備条例を定めており、下鴨神社はこれにより歴史遺産型の美観地区に定められていて、建物の形態、意匠、高さ等についての基準も設けられていますし、基準に違反する建物を建築した場合の罰則もあります。
結局のところ、法律や条例が種々の規制を定めていたとしても、それをクリアしていれば、行政としてはそれ以上の規制をすることはできません。せっかく世界遺産として登録されている場所ですから、問題が大きくなってイメージが損なわれることのないように祈るばかりです。
(田沢 剛/弁護士)