老後資金がどの程度必要なのか
「みんなの声」で実施されたアンケートによれば、「老後資金、対策はしている?」との質問に対して「していない」が68%、「している」が32%との回答がありました。高齢化社会による年金問題などが話題となって老後生活への不安が報道されるようになりましたが、現実問題、なかなか具体的な対策を立てていない人が多いということでしょう。
そこで、今回は老後資金の貯蓄方法について紹介しますが、その前に老後資金がどの程度必要なのかを計算してみます。老後のために自分で用意する必要がある自己資金とは、必要な生活費のうち、公的年金などでカバーできない金額となります。では、公的年金としてもらえる金額は何円でしょうか。下記、仮の人物像からシミュレートしてみます。
老後に必要な生活費の合計は、「約7550万円」
■設定
夫:現在40歳、年収500万円、退職金1500万円。
国民年金40年加入、22歳から会社員となり厚生年金加入、65歳定年まで働く。
妻:現在36歳 専業主婦
国民年金40年加入、22歳から27歳までは会社員として厚生年金加入。
その後は第3号(夫の厚生年金の扶養に入る)被保険者。
■年金額(平均年齢「夫:81歳」「妻:87歳」まで)
・65歳から68歳まで夫婦2人で235万円/年
・69歳から81歳まで夫婦2人で277万円/年
・夫が亡くなった後、妻1人の10年間は81万円/年
※結果、老後に受け取れる年金合計は「約5350万円」
生活費は人により大幅に異なりますが、生活保険文化センターの調査結果を見ると、平成25年の「老後の最低日常生活費」は月22万、「ゆとりある老後生活費」であれば月35.4万円が必要だとしています。今回は、その中間の月28.7万円で老後のために貯めるべき金額を試算してみましょう。
■老後の必要額
・65歳から81歳まで:生活費月28.7万円 合計:約5510万円
・妻1人での10年:生活費月17万円(仮定) 合計:2040万円
結果、老後に必要な生活費の合計は、「約7550万円」。必要な生活費から公的年金受給額を引くと、約2200万円の自己資金が必要です。また、夫が受け取った退職金1500万円を老後の自己資金の一部として利用すると、最終的には差引700万円という金額が必要となります。
将来的な年金額が、現状より目減りする可能性も
なお、上記の設定では厚生年金に加入していますが、国民年金のみに加入している人は受け取る年金額が少なくなり、収入によって年金額も変わってきます。それぞれの状況で確認しておくことが賢明です。ただし、この金額は現在の紙幣価値で換算したものです。長いスパンで見れば必ずお金の価値は上下し、物価が上昇すればインフレでお金の価値が下がります。
現状、日本では物価上昇を目指した政策が取られており、成功すればお金の価値は下がります。年1%ずつ上昇していくと仮定すれば、年金を受け取る25年後には現在の約1.28倍のお金が必要となります。もちろん、貨幣価値がほとんど変わらない可能性も考えられます。
公的年金は、物価や賃金の変動率によって年度ごとに改定されることになっていますが、「マクロ経済スライド」が導入されて計算方法が変わり、物価上昇分全てが反映されるわけではありません。また、現在働き手となっている世代がもらえる年金額は、現状より目減りする可能性も視野に入れておきたいところです。
自身が将来どのように生活したいのかを考えることがスタート
以上のことを踏まえ、「貯蓄」「投資」「保険」という3項目から老後資金への備えを考えていきましょう。「貯蓄」の場合、「残ったお金を貯める」のではなく、月々決まった額を確実に貯蓄します。ただし、インフレの観点から見ると、現金で置いておくと資産は目減りします。
そこで活躍するのが「投資」です。現在運用中のNISA口座を利用すれば、運用益は非課税になります。少額から始められる投資信託もあり、貯蓄感覚で始められるでしょう。そのほか、不動産系の投資は「不動産」という現物があるため、景気の動向により値が変化し、インフレにも対応できます。また、インフレは国ごとに起きるため、外国資産への投資もインフレリスクを回避できると考えられます。しかし、投資全般には価格変動・為替変動などのリスクがあります。じっくりと検討し、分散投資などでリスクの軽減を図りましょう。
また、若いうちに個人年金保険等に加入しておくと、老後に決まった金額を受け取ることも可能ですが、途中解約することで払い込んだ金額を割り込む可能性があるので要注意です。その他、生活スタイルを変えることにより、必要額を減らすことを考えるのも一つの方法です。例えば、日本より物価の低い海外への移住や自給自足の生活をしてみるなど、さまざまな可能性があります。お金はある程度必要ですが、その前に自身が将来どのように生活したいのか、という点を考えるところから始めてみてはいかがでしょうか。
(佐々木 茂樹/ファイナンシャルプランナー)