「疑わしい事実」を鵜呑みにせず「手口(手段)」に翻弄されない
昨今、地方の高齢者を狙った「上京型詐欺(特殊詐欺)」が急増しています。空港や列車などの職員による阻止事例も報告され、警察は交通機関との連携を強化して注意を呼び掛けています。警視庁をはじめ全国の警察では、「振り込み型」を金融機関、「送付型」を運送事業者、「手渡し型」を被害者へそれぞれ協力要請を行うことで、被害を撲滅しようとしてきました。新たな手口である「上京型」に対しても、交通機関へ協力を要請し、幾重にも施策を講じて被害拡大を阻止する構えです。
次から次へと新たな手口を繰り出す詐欺グループですが、行われているのは「詐欺」であり、疑わしい事実をちらつかせ、お金を騙し取ることに違いはありません。着目すべきは「疑わしい事実」を鵜呑みにせず、目に見える「手口(手段)」に翻弄されないことです。
奪ったはずの相談する機会を「親切」が補っている
詐欺グループが手口を駆使する理由には、騙せる相手(被害者)を増やす狙いがあります。私たちには、物事を1対1で見てしまう傾向があり、「振り込み型」が横行して「送付型」という新たな手口が現れた際、「振り込みではないから詐欺ではない」と自分の判断を正当化してしまいがちです。
つまり、「振り込み型」「送付型」「手渡し型」など、従来の手口が公表されて注意喚起が盛んになればなるほど「思い込み」が強くなり、新しい手口に騙されやすくなるということです。「上京型」には、この「思い込み」だけではなく、遠くへ呼び出すことで緊急性を強く訴えて冷静な判断力を奪い、不慣れな土地に誘導することで相談の機会を奪う効果も望め、詐欺グループにとっては騙しやすい手口(手段)になります。
しかし、この詐欺にも盲点があり、それが交通機関の職員による声掛けです。困っている様子の乗客に対する率先した声掛けで犯行が明るみになり、犯行が未然に防がれたケースもあります。つまり、不慣れな土地に誘導し、奪ったはずの相談する機会を「親切」が補っているのです。
「お金にまつわる嘘」に着目することが肝心
地方の高齢者を狙う理由として「おおらか」「寡黙」などの気質が挙げられます。詐欺グループが利用する「身内の金銭トラブル」は打ち明けにくく、自分で処理しようと考えがちになります。また、犯罪率の低い地方では、警戒心も低いことが理由として考えられます。
詐欺グループの手口は、今後も変化を続けることが予測されますが、手口に翻弄されず、詐欺という犯罪に着目することが大切です。しかし、多岐に渡る手口を予測し、対策を講じることは不可能です。詐欺被害の防止には、共通点である「お金にまつわる嘘」に着目することが肝心です。嘘を見破るのは至難の業ですが、確かめることは誰にでもできます。例えば、金融商品の儲け話なら銀行や証券会社の窓口、金銭トラブルなら警察や市区町村役場が確かめる相手として連想されます。
強い危機意識を持つことが必要
そして、身内であれば本人が確実です。与えられた情報を無闇に信用するのではなく、自分で確かめることが大切なのです。言葉巧みに騙そうとする嘘には、必ず現実ではあり得ない内容が含まれています。被害事例では、日常生活で知り得ない専門知識を利用する手口が多く、「知らない(わからない)から信用してしまった」という被害者の声も報告されています。
知らない(わからない)を放置することは、後悔だけではなく、大きな損害にもつながる危険な行為です。お金にまつわる話は、信じる前に確かめる習慣が詐欺被害を未然に防ぐ最も有効な手段です。また、特殊詐欺の特徴として、役割分担され、組織化されたグループが行っているケースが大半です。つまり、「統制された組織」対「個人」の対立構図が成り立ち、「ひとりでは解決(判断)できない」「他人の力を借りる」など、強い危機意識を持つことが必要です。
(神田 正範/防犯・防災コンサルタント)