議員立法により酒税法など一部改正の動き
最近、お酒の激安販売を規制するため、議員立法により酒税法などを一部改正する動きが出ています。報道によると、お酒の激安販売を規制する目的は「酒税の円滑な徴収が阻害される」あるいは「一般の酒販店を保護する」といったことのようです。
お酒の激安販売は、ディスカウントストアやスーパーなどの量販店で行われているようですが、中には仕入の原価を下回る販売額になることもあり、このような低価格では一般の酒販店が対抗できず「健全な競争が阻害される」と指摘されています。
そして、健全な競争が阻害されれば一般の酒販店の経営が行き詰まり、結果として「酒税の徴収にも影響が出る」ともいわれています。もっともらしく思えますが、このような理由で今回のような法改正をすることは本当に正しいのでしょうか。
現行の法律でも、独占禁止法の不当廉売にあたれば規制対象に
まず、「健全な競争が阻害される」という点ですが、現行の法律でも、独占禁止法の不当廉売にあたるような販売方法であれば、独占禁止法違反として規制の対象になります。
ですから、単に健全な競争が阻害されるというだけではなく、現行法では規制が不十分であるという根拠や、さらに強い規制が必要な理由が求められるのではないかと思います。今回の法改正の動きの中では、この点についての根拠や理由があまり明確ではないような印象を受けます。
また、「酒税の円滑な徴収のため」あるいは「一般の酒販店を保護する」という点についても、そもそも激安販売によって酒税の徴収率が下がったという根拠があるのかどうか、また、一般の酒販店を保護すれば酒税の徴収率が確保できるという根拠があるのかどうか、よくわかりません。
逆に、激安販売がなくなってお酒の販売価格が上がってしまうと、お酒の消費量自体が減ってしまい、結果的に酒税の徴収額が下がってしまう可能性も考えられます。その点もシミュレートされているのか不明です。
本来、「経済活動は自由競争に委ねられるべき」
このように見てくると、規制の必要性や理由が全くないわけではなさそうですが「果たしてそれが本当に合理的なのか」「他にもより良い選択肢があるのではないか」「実は消費者や国全体の税収にとってはあまり利益がないのではないか」といった疑問も残る法改正のように感じます。何より、なぜお酒の場合だけ法改正の必要があるのでしょうか。他の商品と違って「お酒だけは規制しなければならない」という理由がはっきりしなければ、他に何か隠された理由があるのではないかという疑念も払拭できないでしょう。
本来、「経済活動は自由競争に委ねられるべきである」とされ、規制は合理的理由がなければならないものと考えられています。今回のお酒の激安販売の規制が「本当に必要なものである」というのであれば、それだけの合理的な根拠や理由をきちんと明示して、消費者となる国民や税収の減少を心配する国民、さらには同じく大量販売による価格競争に悩んでいる酒販店以外の零細事業者を納得させてほしいところです。
(川島 英雄/弁護士)