種類株とは、通常流通している普通株とは権利の内容が異なる株式
トヨタ自動車が種類株の発行を決めました。6月の定時株主総会での承認後、別途取締役会にて詳細を決定し、7月にも発行される予定です。種類株とは、通常流通している普通株とは権利の内容が異なる株式のことで、さまざまなタイプがあります。
2000年代以降、会社法や取引所規則の改正により、種類株式の多様化が進みました。例えば、「配当は高くしてもいいけど、経営には口を出してほしくない」と考えている会社は「議決権の制限をつけた高配当の株」を、「すぐに売らずに、長期間保有してほしい」と考えている会社は「譲渡制限付の株」というように、会社の状況に合わせた株を発行し、資金調達することができるのです。
購入した価格でトヨタが買い取ってくれる
今回は「全期間譲渡制限付・議決権あり・非上場」の株式で、5年間は譲渡・換金ができません。5年が経過した後は普通株式へ転換するか、発行価格でトヨタに買い取りを請求することができます。
「トヨタ」といえば「世界のトヨタ」として、昨年まで3年間、車販売台数世界一位を誇っており、先日の決算発表では、日本企業初の税引き後利益を2兆円台に乗せたと話題になりました。こうした状況から見ても、現実的に当面の倒産は考えにくいでしょう。そのため、トヨタの株価が値下がりしていたとしても、購入した価格でトヨタが買い取ってくれる、つまり「元本保証」と同等と考えることができるのです。
もちろん、配当もあります。初年度が0.5%と低く設定されていて、その後は毎年0.5%ずつアップし、5年目以降は2.5%となります。
トヨタの種類株の配当はかなり高い利率
同じく「5年」で「元本保証」というと、5年国債があります。ちなみに平成27年6月発行の個人向け固定5年国債の適用利率は0.08%となっており、比較すればトヨタの種類株の配当はかなり高い利率です。(国債は発行後1年すると換金が可能)
今後は、政権のコーポレートガバナンスの強化策として、グループ会社で相互の株式を持ち合えなくなる可能性が高まっています。トヨタとしては、5年間譲渡されない株は、グループ会社や株式持ち合いに代わって、中長期的に安定して株を保有する投資家を集められるため、大きなメリットとなるでしょう。(株式持ち合いとは、複数の株式会社がお互いの発行済株式を保有する状態で、バブル経済の崩壊後、企業の経営が圧迫された歴史があります)
今後、種類株発行を検討する企業が増えてくるかもしれない
なお、金融機関の中には「個人投資家を対象とした株を発行することで、企業にとって負担となる機関投資家などの『モノ言う株主』からの干渉を排除したいのではないか」と見ているところもあります。
今後は、5年間にわたってシリーズ化して発行する構想もあるそうで、トヨタの種類株が成果を上げれば、今後、種類株発行を検討する企業が増えてくるかもしれません。残念ながら、今回の種類株は「非上場株」でNISAでの購入はできませんが、投資先の一つとして検討してみる価値はありそうです。
(佐々木 茂樹/ファイナンシャルプランナー)