育児に熱心な男は出世しない?
「イクメン」という言葉が生まれて数年、まだまだ男性が育児休業を取得し、仕事より家庭を優先するのは難しい印象があります。数値上でも、育児休業を取る女性は76%となっていますが、男性は2%ほどです(平成25年厚生労働省調査)。現時点では、「イクメン」が定着するのはまだまだ先になりそうです。
今年に入って、著名な漫画家の意見「育児に熱心な男は出世しない」が話題になりました。しかし、前述の現状を考慮すれば、それも否定できないところがあると思います。要因はさまざまですが、上司の理解が得られないという会社もあるはずです。また、子どもがある程度大きくなるまでは母親が一緒にいた方がよく、そのため、父親が働くのは当然だという考え方があることも原因の一つです。
そうした日本の今までの流れ、文化が最も大きな障壁になっているという事実は、多くの人が気付いている通りでしょう。しかし、今回は文化の話は除外し、イクメンが「働くこと」について考えていきます。
問題は「働いた時間に対して評価され、給与が出る」日本の現状
イクメンが出世できない原因は、日本の現状が「働いた時間に対して評価され、給与が出る」というシステムになっているためです(女性が出世できない原因も同様)。日本では、雇用されて働いている場合、仕事で出した結果ではなく、時間に対して対価が支払われます。
会社の指揮命令下にある時間が、労働時間です。語弊があるかもしれませんが、会社の指示を聞き、実行している時間が労働時間です。特に差し迫った仕事がない日でも、定時に出勤して仕事を探してでもやらなければなりません。遅刻・早退・欠勤は「ノーワークノーペイ」とされ、給与が支払われないことは当然であり、勤怠不良は人事評価にも影響します。
「イクメンは出世できない」は残念ながら現実
そのため、どんな理由であれ「会社に行かなかった=働かなかった」とされます。人事評価の面から考えれば、育児を理由に休みを取得する、出勤時間をずらすなどの際、不利な扱いは禁止されています。しかし、働かなかった時間に働いていた同僚がいれば、働いていた同僚にチャンスが与えられることも多く、そこで成果を上げれば出世の道も拓けます。そう考えれば、イクメンは出世できないというのは、残念ながら現実ということになってしまいます。
それでも、もし今後、働く時間ではなく「結果」や「成果」で評価されるようになれば、フルタイムで働いても短時間で働いても、あるいは会社に出勤しなくても、出した結果や成果が同じであれば評価や給与も同じになるはずです。むしろ、育児や家庭に時間を使えるほど調整能力や集中力がある「イクメン」の方が、出世に近いのではないかと思います。
なぜ国や一部の企業がイクメンを推奨するか?
では、出世しない(評価されない)イクメンを、国や一部の企業がなぜ推奨しているのでしょうか。それは、「女性に働いてもらいたいから」というのが大きな要因です。日本は少子化が進み、新しい働き手は減少し続けています。将来的に考えた場合、その打開策として「働き手となれる人=主婦」が注目されているのです。
さて、妻が夫と同じように働くには、夫と同じ条件で働けなければ平等ではありません。妻が家事をするのが当たり前だとすれば、家事をした上で夫と同じだけ働き、成果を出さなければいけないというハンデを背負っています。
時間に対して評価される働き方を見直すことが必要
イクメンを推奨している企業は、イクメンを推奨することで女性が働きやすい職場をつくり、優秀な女性社員が家事や育児があっても同じように活躍できる場をつくっているのです。企業全体として見れば、優秀な社員が男女問わず長く働くことがプラスになるのです。
イクメンの存在は、国にとっても企業にとってもプラスに働きます。今後はイクメンという言葉がなくなるくらい当たり前になっていくべきで、そのためには、時間に対して評価される働き方を見直すことが必要なのではないかと思います。
(市川 恵/社会保険労務士)