深刻ないじめが社会問題化
大阪市の小学生がいじめの被害を訴えたにも関わらず、学校や市教委は踏み込んだ対策を取らずに、数年間も放置しているという報道がありました。被害者にとっては待ったなしの状況にも関わらず、このような事態は見過ごしてはいけません。
深刻ないじめは今や社会問題化しており、学校や警察、行政までさまざまなレベルでの対応が求められています。同時に、誰もがいじめの被害者になりうる現代では「もし被害者が我が子であったら」と、他人事ではなく自分の問題として考えておく必要もあるでしょう。
曖昧な訴えや被害状況では、学校も警察もなかなか動いてくれない
では、仮に我が子がいじめの被害者になった場合、どう対応すればよいでしょうか。基本は「証拠を集めて、学校や警察を動かす」ということです。「いつ、どこで、どんな変化が子どもに表れたか」という、親が感じた子供の態度の変化と同時に、体のあざや傷、服や持ち物の破損等を日時・場所を含めて写真に残しておきます。もちろん、周囲の目撃情報や病院の診断書なども欠かせません。曖昧な訴えや被害状況では、学校も警察もなかなか動いてくれません。これらの具体的なレポートを作成することで、初めて学校に相談する材料ができるのです。
次に、集めた情報を持って学校を訪れ、話し合いを始めます。その際、感情的にまくしたてるのではなく、証拠を基に冷静に「わが子にこういう変化が起きている。この日のこの時間帯にどういう状況で何があったか具体的に調べて教えてほしい」と学校に伝え、一緒に対策を考えましょう。学校を批判して敵に回してしまっては、ますます事態が複雑化してしまいます。
同時に、「子どもと向き合うこと」が大切です。直接「いじめ」について問いただしても本当のことを話すことは少ないものです。いじめに触れる前に、普段からコミュニケーションを通して、「どんなことがあってもお前の味方だ」というメッセージを伝えましょう。特に思春期に入ると、ただでさえ親に本音を打ち明けることは難しくなります。焦らず、諦めずにコミュニケーションを心がけ、もし、子どもの告発があれば迷わず学校へ働きかけましょう。
いじめを解決するには、本人や家族の多大なエネルギーが必要
昨今の深刻ないじめの中には、先日の川崎市の中学生殺害事件のように、学校の範囲を超える犯罪事件もあります。そんな時、警察や教育員会への働きかけが必要です。加害者が地域の少年たちである場合、警察はかなりの確率でその情報をつかんでいるものです。子どもがのっぴきならない状況に追い込まれる前に、できるだけ早く具体的な証拠と子どもの告発を持って警察に連絡しましょう。具体的な証拠があれば、警察はかなりのスピードで動いてくれるはずです。
それでも埒が明かない場合は、いじめを扱う私立探偵業者や弁護士の力を借りること、さらにはマスメディアへの告発も選択肢の一つかもしれません。先日報道された下関市の障害者施設での虐待事件では、内部告発の映像がマスメディアで公になってやっと行政が動きました。確実な証拠が表に出て責任を追及されなければ、なかなか動いてくれないのが残念ながら現実です。ただしその場合、共感的な反響だけでなく悪意の批判も予想されます。十分な覚悟と、先を見越した対策は必要でしょう。
証拠を集め、関係者を動かし、粘り強くいじめを解決するには、本人や家族の多大なエネルギーが必要とされます。しかし、我が子のピンチに家族が気持ちを一つにして取り組むという経験は、子どもの心の中に「自分はいじめをうやむやにせず、立ち向かうことができた」という「自信」を生み出し、さらに「家族も自分を励まし、一緒に戦ってくれた」という「家族に対する絆」を深める大切な経験となることと信じています。
(岸井 謙児/臨床心理士・スクールカウンセラー)