出産の前後に取得できる産休
妊娠、出産は女性にとって大きな喜びで、とても素晴らしいことです。しかし、体内に命が宿り育つわけですから、人により程度はあっても体に負担がかかります。つわりで食欲が落ちるうえ、夏になり猛暑が続くとなると体調が気になります。仕事をしている女性であれば、そういった不安を抱えながら働くことになります。
出産前後には産休があり、産前6週(多胎妊娠の場合14週)と産後8週が休みとなり、この期間は出産手当金が支給されます。この制度については知っている人も多いと思います。
産休前も妊娠、出産について事業主は配慮しなければならない
さて、産休に入れるのは出産予定日の1カ月半前。それまでの間、今まで通りに仕事をしなければならないのでしょうか。つわりがひどくて休んだら、辞めさせられるのでしょうか。
実は、産休に入る前も妊娠・出産については事業主が配慮しなければならないことになっています。男女雇用機会均等法第9条で、妊娠出産を理由にした「不利益取り扱いの禁止」が決められており、「妊娠してからつわりがひどくて働けない?じゃあ辞めてね」ということはできないことになっています。事業主は、「結婚」「妊娠」「出産」「直接ではなくても妊娠・出産にかかわる事」を理由に従業員を解雇や降格、異動させることはできません。
妊娠・出産にかかわる事を理由にした不利益な取り扱いは禁止
では「妊娠・出産にかかわる事を理由にした」とは、具体的にどんなことでしょう。厚生労働省令では、「妊娠・出産したこと」や「それを理由に業務の転換を希望したり逆に拒否した」「残業を断った」「育児時間を求めた」「妊娠または出産に起因する症状により労働できなかったりしたとき」と定められています。
つまり「妊娠または出産に起因する症状により労働できないこと(妊娠初期のつわりや体調不良での休み)」を理由に、不利益な扱いをしてはならないことになっています。
つらいときには診断書や母性健康管理指導事項連絡カードの取得を
あまりにも体がつらいときは医師に診断書をもらい、休職させてもらうということもできます。妊娠を理由とした休職ですので、会社がこれを断って退職させることはできません。産前休業ではないので出産手当金は出ませんが、傷病手当金はもらえます。
「休職するほどではないけれど…」といった場合、例えば「体調が悪くなってしまうので、出勤時間をラッシュからずらしてほしい」「残業をさせないでほしい」「体に負担がかかる今の業務から外してほしい」という人は、医師に「母性健康管理指導事項連絡カード」を作ってもらいましょう。これは「この人へこういう配慮をしてください」という連絡カードになっていて、会社はこの指示事項を守らなくてはなりません。
法律的なことだけでなく、会社内で理解を深めることが大切
ここまでの話で「妊婦ってなんでも許されるの?」と思う人もいるでしょう。「配慮しなければならない」ということが決まっていると、権利を主張する人は必ず出てきます。無断欠勤・遅刻を繰り返し、注意しても「つわりだからしょうがない」「男女雇用機会均等法でいいと言っている」「勤怠が悪くても評価は下げられない」と、ケロッとしている人もごく一部ですが存在します。
そういう人に「注意する方法はないか」といった相談も、実際に寄せられています。しかし「妊娠または出産に起因する症状により労働できないこと」を判断するのは、本人ではなく医師です。そこで、先述の「母性健康管理指導事項連絡カード」で必要なことを医師に判断してもらい、それに沿って措置を講じるということもできます。
妊娠、出産はおめでたいことです。しかし、会社はさまざまな人が集まって成り立つ場所です。法律上はこのようになっていますが、周りの人は本人がいつもと違うという状況を理解し、また休みを取るほうは業務に影響がないよう、お互いに思いやり調整することが必要です。
(市川 恵/社会保険労務士)