社員の士気を保ちながらの経営再建は容易ではない
経営再建中のシャープ株式会社が、45歳以上を対象に3500人の希望退職者を募っています。その中の優秀な技術職をめぐり、国内外の企業が人材のヘッドハンティングに血眼になっているとの報道がありました。例えば、国内ではアイリスオーヤマ、日本電産。海外では中国系のハイアールアジア、台湾系のホンハイ精密工業グループなどが該当します。
シャープの希望退職者には、「退職金+給与26カ月分(2年2カ月)」の特別加算金が支払われる予定です。もちろん、希望退職者の中には、会社が目を掛けていた次代の幹部候補も含まれます。事実、前回のシャープの人員整理では、そうした人材が数十人も含まれていました。元三洋の幹部だった人物は、「人を切ると次のメシの種を創る人材まで抜けていく」と警告を発しています。シャープとしても、次代を担う優秀な人材の流出を阻止するため、該当者は希望退職者から外すとしています。しかし、残された社員の士気を保ちながらの経営再建は容易ではないと考えられます。
人材を考慮して拡大を目指さなければ、いずれ会社は破綻する
起業家や経営者であれば、自分の事業を大きくしたいと考えることは不思議ではありません。しかし、「優秀な人材の増加スピード以上に企業が大きくなることは無い」「景気は水もので、好況なときもあれば不況期も必ずある」ということも事実です。それを念頭に置き、自社の人材を考慮して拡大を目指さなければ、いずれ会社は破綻します。
多くの中小企業は中途採用がメーンであり、経験者であれば即採用してしまう傾向にあります。すると、会社の求めている人材像や会社の経営ビジョンが、社員と共有されなくなる恐れがあります。また、中途で入社した社員は今より条件の良い企業があれば、簡単に出ていく可能性が高くなります。自分の会社が何を目的とし、何のために存在しているのか、そのために社員にはどうあって欲しいのかを明示し、共有することが重要です。
失敗するリーダーの9割は人格に問題が
これはなにも人事考課で評価し、ボーナスや報酬を弾めということではありません。人の動機は、必ずしも報酬で動かせるものではなく、自分が社内で重用されているのか、不可欠な存在であるのか、という自尊心を刺激されることを評価と受け取る社員もいます。
報酬は、金銭とは限らないのです。人によっては名誉であったり、地位であったり、安定や安心であったり、やりがいや使命感だったりとさまざま。自社の状況と社員の性格に合わせた柔軟な評価を与えることが、社員を思いとどまらせるには必要です。大切なのは、会社と社員という主従関係を捨て、パートナー、または船の乗組員との意識を持つことです。
社員は社長や幹部が私利私欲のために動いているか、公利のために動いているかを察しているものです。どんなに良い制度を導入しても、誠実さがなければ誰もついてきません。ある調査では、失敗するリーダーの9割は人格に問題があったという報告もあるため、人間性を磨くことも忘れてはいけません。
(佐藤 憲彦/社会保険労務士)