日本音楽著作権協会(JASRAC)がBGMの使用停止を申し立て
6月9日、日本音楽著作権協会(JASRAC)は、全国15簡易裁判所に著作権料の支払いとBGMの使用停止を飲食店等に求める民事調停を一斉に申し立てました。
JASRACの規定によると、録音物を再生してBGMとして利用する場合、1年単位で使用料を支払う必要があり、例えば店舗面積500平方メートル以下の店舗などの場合、年額使用料6000円を支払う必要があるということになります。
営利を目的としないBGMの使用は許される
さて、どこまでが著作権の対象となるのか説明しましょう。
(a)営利を目的としないBGMの使用は許される。
著作権法第38条第1項は、「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない」と規定しています。町内会などの会合で100円の入場料金をとった場合、その入場料金が演奏者への「報酬」に該当するかは議論があるでしょう。
(b) 個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内での使用は許される。
著作権法第30条第1項には「著作権の目的となっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる」との制限規定があります。法第30条の「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」には、150平方メートル以下の小規模店舗内においての使用が該当しないかといった声もあります。
(c)公衆に直接見せ又は聞かせることを目的としないBGMの使用は許される。
著作権法第22条は、「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する」と「上演権」及び「演奏権」を規定しています。「無音では寂しい」という理由で、従業員が私的にBGMを店舗内に流すことにより仕事の効率をあげようとする行為が、法第22条に規定する上演権又は演奏権に該当するのかという、「公衆に直接聞かせることを目的」の文言の解釈について問題もあります。
著作権の保護が過度になっていないか?
ワシントン大学のボルドリン教授らは、「著作権が生んだビジネスモデルは非効率的で不公正であるだけでなく、腐敗している。…(中略)…。著作権保護はその中で重要な役割を果たしていなかったのだ」と述べています(ボルドリン/レヴァイン著、『<反>知的独占-特許と著作権の経済学』NTT出版株式会社、P150、265、267参照)。
1822年のパリの判決では、劇場以外の場所で音楽著作物を演奏することは自由でした。1851年に音楽著作権の集中管理団体としてのSACEMが設立されて以来、演奏利用料の徴収が広範かつ厳しくなったのです。1709年のアン法では、著作権の存続期間は特許権と同じ14年でした。フランスの1793年の著作権法では著作者の死後10年間になり、現在では死後50年間となりました。
現在の特許権の存続期間は出願から20年ですが、なぜ著作権の存続期間は死後50年間もあるのでしょうか。死後、著作者に対する創作意欲等のインセンティブは機能しないはずです。BGMの使用料の徴収によって、利益を得るのは著作者ではなく、音楽著作権管理事業者になってしまわないでしょうか。
現在のBGMの使用料の徴収法が、著作権法第1条に規定する「文化の発展に寄与すること」を目的とする著作権法の趣旨に沿っているかは、熟慮する必要がありますが、現状の著作権法のもとでは、著作権管理事業者と利用許諾契約をする必要があり、安易に音源を利用しないように留意しなければなりません。
(鈴木 壯兵衞/弁理士)