熟年離婚の問題はそれぞれの生活設計基盤
熟年離婚が若い世代の離婚と最も異なる点は、離婚後のそれぞれの生活設計基盤です。若い世代の場合、離婚後に「自分の就労所得」を生活設計の基盤とすることができますが、熟年となればそうはいきません。「今あるお金」をどう分け、どう使うかがこれからの生活基盤となるわけで、熟年離婚だからこそ考えておかなければならないポイントがあります。
平成19年から、老齢厚生年金を離婚時に配偶者へ分割できる制度が始まりました。これが、離婚時の年金分割です。この分割方法は、合意分割と三号分割の二種類があり、妻のそれまでの働き方などにより分割方法が変わってきます。
しかし、年金を分割したとしても、そもそも家計に入ってくるはずだったお金を分けることになり、トータル金額が増えるわけではありません。夫婦として一緒に生活をする分には十分だった年金も、離婚後、それぞれに住居を構え生活を始めるとなれば、もしかしたら不足してしまうかもしれません。
働きたいと考えても、体力的にも能力的にも思い通りにはいかない
夫婦が二人で築いてきた資産は共有財産ですから、離婚すれば折半が原則です。年金の他、退職金やこれまでの貯蓄も折半となります。繰り返しになりますが、若い世代の離婚は、離婚後の生活を支える収入をそれぞれが作りあげることが可能です。互いに新しい生活を築いていくだけの、若さと働ける能力があります。
しかし、熟年離婚となれば、働きたいと考えても、体力的にも能力的にもなかなか思うようにはいきません。また、年齢を重ねるとともに病気や介護の問題が出てくるため、ここを一人で乗り切るのか、二人で乗り切るのかによって必要なお金の額も変わってきます。
離婚を考える前に今ある資産を把握することが重要
仮に60歳で熟年離婚を決断したとしても、その後の人生は決して短くありません。20年、30年と続く自分の時間をどう過ごすか、また、経済的にどう支えていくのかはとても大きな課題です。
もし、離婚を考えているのであれば、まずは今ある資産をしっかり把握することが重要です。保険や証券、年金や退職金、企業年金など、銀行の預金通帳には載っていない情報も必要です。その上で、自分自身の将来設計を考えましょう。可能であれば、できるだけ長く収入を得られるようなスキルを磨いておくことも必要かもしれません。
熟年者にとって、老後は結婚していようと離婚していようと、考えるべき問題は数多く存在します。収入を増やせる年代ではなくなってしまい、これまでの資産の取り崩し期に入るということは紛れも無い事実のため、早めにそれを認識して取り組むべきでしょう。経済的な基盤を確保することにより、今後一人でも幸せ、二人でも幸せと思える気持ちのゆとりが、本当の「お得」なのではないでしょうか。
(山中 伸枝/ファイナンシャルプランナー)