「闇サイト殺人事件」の神田司死刑囚の死刑を執行
平成19年に名古屋市内で起きた、いわゆる「闇サイト殺人事件」の神田司死刑囚に対する死刑が執行されたことが、法務省から発表されました。第三次安倍内閣になって初めての死刑執行とのことです。
この事件自体、インターネット上で犯罪を行う共犯者を募って強盗殺人事件まで犯してしまうという、これまでにない犯罪の形が話題になりましたが、1審の死刑判決に対して、弁護人が行った控訴を被告人自身が取り下げて死刑が確定するという異例の展開で裁判が終結した事件でもあります。
死刑執行には法務大臣の命令が必要
刑事裁判が確定すると懲役刑であれば被告人は収監されて刑務所に入りますし、罰金刑であればすぐに罰金の納付が求められますが、死刑の場合には、判決が確定したからといってすぐに死刑が執行される訳ではありません。
判決書などのチェックを行ったうえで最終的に法務大臣が死刑執行命令書に署名すると、その5日以内に死刑が執行されるというのがわが国の死刑執行の流れです。法務大臣の命令が必要とされているのは、それだけ死刑の執行は慎重に行うべきだという政策的配慮からなのでしょう。
刑事訴訟法475条2項には「前項の命令(法務大臣の死刑執行命令)は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない」と規定されているので、法律の規定をそのまま読むと、死刑囚は死刑確定から遅くとも6カ月以内に死刑になっているはずですが、現在わが国には刑の執行停止中の袴田巌氏を除いて129人の確定死刑囚がいると報じられています。
世界的には死刑を存続している国は少数派
実は、世界的には死刑を存続している国は少数派で、死刑が存続している地域もアジア、アフリカ、中南米諸国がほとんどで、欧米の先進国ではアメリカの一部の州が死刑を存続しているくらいですし、お隣の韓国でも事実上死刑の執行は行われていないので、世界的には死刑廃止の流れが定着しているといえます。また、国際人権規約委員会が、わが国に対して「死刑の廃止を十分に考慮すべき」という勧告を行っているということもあります。
死刑が犯罪の抑止力になっている可能性は低い
死刑廃止のひとつの根拠は冤罪の可能性ですが、冤罪の問題を抜きにしても、重大事件を犯すときに、人は死刑に処せられる可能性を考慮して思いとどまることはないと言われています。むしろ最近では、死刑になりたいからという理由で無差別殺人を行う犯罪者まで現れています。
被害者の遺族の心情に思いを致すとき、死刑制度廃止に踏み出すことに躊躇を覚えることはあるのでしょうが、死刑は国家による殺人です。重大事件の被害者遺族が「極刑を望む」という心情は理解できますが、その「極刑」が死刑である必要があるのかということはよくよく考える必要があるのではないでしょうか。
死刑に処するよりも、生きて罪を償わせることの意義を考える視点も必要だと思います。また、重大事件を犯して刑に服している中には、刑務所の中で思索を深めて社会に貢献できる創作を行う人もいます。そんな可能性を死刑によって奪うことが本当に良いのか。死刑執行の報道に接するたびに考えさせられてしまいます。
(舛田 雅彦/弁護士)