NHKが求めてから、2週間経過で契約が自動成立との判決が下る
NHKが放送受信料の契約をしていない「未契約世帯」を簡易裁判所で訴えた結果、勝訴し、NHKが契約を求めてから2週間経てば自動で契約が成立するとの判決が下りました。放送法という法律では、受信設備を設置した者はNHKと受信契約をしなければならないとされています。テレビは「受信設備」ですので、テレビを所有していれば受信契約を結ぶ必要があるということです。
そのため、テレビが家にあり、NHKと契約していない人が受信契約を締結させられるとして、その時点はいつか、という点などがこれまでの訴訟で問題になっています。最高裁での判断は未だ出ておらず、高裁や地裁などでは判断が分かれています。前述の判決もその一部であり、受信契約が成立すればNHKの規約に基づき、受信設備の設置日に遡って受信料金が請求されることになります。
受信契約の締結義務を認めていることが見直されるべき
そんな中、最近ではNHKを受信しないテレビが販売されているそうです。このテレビの扱いについては、放送法64条1項「協会の放送を受信することができる受信設備」に該当するかが問題となります。普通のテレビに受信できなくする機具を付けたというような場合では、機具を外せば受信できる以上、この受信設備にあたらないとするのは苦しいと思われます。しかし、テレビそのものがNHKを受信しないということであれば、この受信設備にはあたらないと言えるかもしれません。
一連の報道に接し、判決で受信契約が強制されることに疑問・違和感を抱く人も少なくないと考えられます。NHKの受信契約問題については、そもそも放送法で受信契約の締結義務を認めていることが見直されるべきかもしれません。
昔はNHKの受信契約締結義務を認める合理性があった
NHKのテレビ放送が始まった昭和28年頃からしばらくの間は、契約自由の原則に反しても、受信契約の締結義務を認めるだけの合理性を裏付ける立法事実があったのでしょう。つまり、地上波を見るための高価な箱であったテレビを設置したのであれば、NHKを見ることも設置者の予定内といえるでしょうから、NHK放送の受益者として契約締結の義務があるとすることに一定の合理性がありました。
また、受信料の性質が、日本全国に良質の放送を提供するためにテレビの設置者に課した負担金であるのであれば、NHKがその提供の役割を担う間は受信契約の義務も合理的と言えたのでしょう。
努力義務を定めた規定とするのが妥当
しかし、現在では、地上波の民放だけではなく、ケーブルテレビや衛星放送にも民間の事業者が増加。放送されるコンテンツはインターネットでの視聴も可能になり、全国で多様な放送の提供を受けられるようになっています。従って、受信契約を強制する合理性は既に無くなっていると思われます。NHKの存在意義は現在も残っているとしても、視聴者と強制的に契約できる特別な地位を認める合理性が、今も存続しているのか甚だ疑問です。
受信契約の裁判では、思想信条の自由や知る権利などの問題も争われています。契約自由の原則やその他の権利と調和的に放送法64条を解釈するのであれば、契約締結義務については、契約を強制することまでは認めず、一種の努力義務を定めた規定とするのが妥当だと思います。
(林 朋寛/弁護士)