少年法適用年齢引き下げは教育的に妥当か
少年法適用年齢の引き下げが話題になっています。この問題は、被害者感情などのさまざまな問題を含めて考えなければならない、一筋縄ではいかない問題です。ここでは適用年齢引き下げが、教育的に妥当かどうかを考えていきます。
仮にテストでいい点数が取れれば、その見返りとして褒美をもらえるとします。これを、正のインセンティブ(誘因)といいます。一方、規則違反によって罰を与えることを、負のインセンティブといいます。人は正のインセンティブがあるものを意欲的に取り組むものの、負のインセンティブがあるものは避けたがる傾向にあります。教育ではこの特性を生かし、学力の向上だけでなく、「悪いこと」を「悪いこと」だと認識させ、それを防止するために役立てています。
正負のインセンティブの使い分け
では、悪いことをしない人になってもらうためには、正のインセンティブを与えるのか負のインセンティブを与えるのか、どちらが効果的でしょうか。それにはまず、負のインセンティブを与えればどうなるのかを考えます。普通、何か罰があればそれをしないように意識します。しかし、その罰を受けることでより大きな利益がある場合はどうでしょうか。スポーツでは、有利な状況に立つため、故意にファウルをすることがあります。ファウルをすれば罰があると理解していても、その罰を逆手に取ります。これでは、悪いことをしないための教育的効果はありません。
また、罰を受けなければいいと考え、法を犯しても見つからなければいいという考えもあります。すると、取り締まる側との「イタチごっこ」に発展してしまいます。実際のスポーツでもこうした場面は多々見られ、これではやはり悪いことをしない教育的効果は望めません。
少年法の目標は悪いことをしない人間に教育すること
このように、人は負のインセンティブではコントロールできません。正のインセンティブの方がコントロールしやすく、それは俗にいう「褒めて育てる」との言葉からもわかります。「褒めて育てる」で見落とされがちなのは、いいことをして褒めるだけでなく、悪いことをせず、踏みとどまった時にも褒めることです。そうした正のインセンティブで、悪いことをしないようになります。
冒頭の成人年齢引き下げの話題に戻れば、再犯を防止する教育という観点からは、刑という負のインセンティブを与えるよりも、教育的な環境で正のインセンティブを与えて考え方や行動を変え、将来の犯罪者をなくしていく方がより効果があります。少年法では、子どもの将来を考え、悪いことしない人間にするための教育を目標にしています。
弾力的な適応も視野に入れた判断が必要
以上のことから、少年法の適応年齢を引き下げることは、再犯防止のための教育を受ける機会を奪ってしまうことになります。すると、正のインセンティブで教育できる人が少なくなり、再犯防止にも効果が少ないと言わざるを得ません。
犯罪者に教育を与えることは、犯罪者自身のためだけではなく、犯罪者をなくすことで未来の犯罪被害を防止し、安心できる社会をつくるためでもあります。罰から教育へ。これは、世界的な流れでもあります。ちなみにドイツでは、少年法の適用年齢は18歳未満ですが、成熟度が少年並みの人と判断された場合には21歳まで少年法が適応されます。こうした弾力的な適応も視野に入れた判断が必要だと考えます。
(船越 克真/教育カウンセラー)