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東京五輪エンブレムは著作権侵害か?判断の行方を占う

JIJICO 2015年8月12日 18時0分

著作権問題で揺れる東京五輪エンブレム

2020年の東京五輪エンブレムが、ベルギーのリエージュ劇場のロゴ(以下、劇場ロゴ)に似ているとされる問題で、劇場ロゴのデザイナーであるオリビエ・ドビ氏(以下、ドビ氏)は、劇場と共同で東京五輪・パラリンピック組織委員会(以下、組織委員会)に対し、東京五輪エンブレムの使用差し止めや、エンブレムの変更を求めています。ドビ氏側は国際オリンピック委員会(以下、IOC)に対しても正式な申立書を送付しており、回答次第では法的措置を取るとしています。

当初、東京五輪エンブレムが劇場ロゴと似ているということで、「商標」の問題であるとの報道もありましたが、組織委員会は「事前に世界中で商標調査を実施した結果、ベルギーの劇場ロゴは商標登録されていなかった」と説明し、IOCも「先方は国際商標登録しておらず、全く問題ない」とコメントしたことから、商標の問題は生じていないようです。

劇場ロゴをデザインしたドビ氏は「自分たちに著作権がある」と主張しており、現時点では「著作権」の問題になっています。ここで、著作権の侵害になるには、「劇場ロゴと東京五輪エンブレムとが客観的に類似している」ことに加え、「東京五輪エンブレムが劇場ロゴに依拠(利用)して創作された」ことが必要となります。

幾何学的なシンプルなデザインは選択の幅がかなり狭い

まず、「劇場ロゴと東京五輪エンブレムは客観的に類似しているか」という点についてですが、これは議論のあるところだと思います。劇場ロゴと東京五輪エンブレムとが「類似する」と考える人も多いでしょう。一見すれば、確かに類似しているという印象が強いかもしれません。一方で、劇場ロゴと東京五輪エンブレムとは「類似しない」と考える人もいるはずです。特にデザイン業界や著作権の専門家は、こちらの立場をとる傾向が強いかもしれません。

理由としては、「1文字」のデザインは、そのデザインの選択の幅が広くないということから、類似範囲が狭く解釈されるのが妥当であると考えられるからです。特に幾何学的なシンプルなデザインは選択の幅がかなり狭いため、類似の範囲も狭く解される傾向が強いと考えられます。

解決までに長期間を要することが懸念される

次に、「東京五輪エンブレムが劇場ロゴに依拠(利用)して創作されたか」という点については、東京五輪エンブレムが創作された過程を含めた事実の説明・証明が重要な要素になるでしょう。ドビ氏側は、劇場ロゴに依拠(利用)して創作されたと認識しています。これに対し、東京五輪エンブレムをデザインした佐野氏は、先日の会見で説明した内容を、創作の過程がわかる資料等を開示しながら丁寧に説明する必要があります。

特に「劇場ロゴを見たことが無い」ということの裏付け、「創作コンセプト」に関する企画書等の資料や、「創作コンセプトから具体的なデザイン」に至った創作活動やデザインの変遷が確認できるファイルやデッサン帳等の資料を必要に応じて開示することです。

デザイナー等の創作者は、自らの仕事に誇りを持ち、自らが創作した創作物に対して深い愛情とプライドを持っています。多くの人々もドビ氏の主張について理解する一方、佐野氏の主張についても理解できると感じているのではないでしょうか。オリンピックという世界が注目するスポーツの祭典のエンブレムであるため、できれば争いが深刻化しないことを願います。しかし、今後の流れ次第では、裁判所において互いに意見を主張し合うことになり、解決までに長期間を要することが懸念されます。

主催者側の知的財産保護は重要な活動の一つ

最後に、オリンピックというスポーツの祭典は「知的財産」によって支えられている一面があるということをあらためて認識する必要があります。各種競技の放送権(著作権)、肖像権、商標、ドメインネーム等の適切な保護および活用は、選手側、運営側、スポンサー側それぞれにとって大変重要なことです。

オリンピックの運営に多額の費用が必要であるという現実があり、その多額の費用をまかなうための有効な手段の一つが、放送業者やスポンサーへの「知的財産」のライセンスなのです。その前提として、主催者側における「知的財産」の適切な保護は、外から見えづらくとも、非常に重要な活動の一つであることがあらためて認識できます。主催者側である組織委員会やIOCが「知的財産」を適切に保護・活用する活動を更に推進し、東京五輪が盛況に開催され、運営されることを心から期待する次第です。

(乾 利之/弁理士)

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