モバイルで教育が受けられる時代の波が押し寄せている
現在、スマートフォンを使用して家庭教師に質問ができるサービスが注目を集めています。授業映像を無料で観覧することができ、質問や添削が必要であれば有料で対応してくれるサービスです。「モバイル家庭教師」という言葉に代表されるように、まさにモバイルで教育が受けられる時代の波が訪れようとしています。
これまで、ICT(情報通信技術)教育はネイティブの英語発音を反復練習したり、苦手なポイントを分析・学習したりすることに力を発揮し、視覚や聴覚を刺激してやる気を引き出す仕掛けによって、「子どもが自ら楽しく学ぶこと」につながることに期待が寄せられていました。今回、それらの利点にモバイルで質問できる「遠隔指導」が加わります。
その場で質問することができるようになり、一方的な解説ではなく、生徒からの更なる質問にも対応が可能です。動画解説などはいつでも何度でも観ることができるため、効果的な繰り返し学習ができるというものです。
学習する習慣がつきにくいという懸念も
「モバイル家庭教師」は一見理想的な教育モデルですが、課題がないわけではありません。従来の対面型の授業と比べた場合、強制力が働かないため、いつでも学べるという気軽さから、学習の習慣がつきにくいという懸念があります。モチベーションが育っていない子どもには、向いているとはいえません。特に小中学生にとっては基礎学力を学ぶ時期に、いつでも学べるという自由さは、かえって学ばない自由につながる危険が潜んでいます。
次に、動画教材は情報をインプットする学習方法です。無料でしかも指導の質が高いからといっても、それだけでは学力アップにはつながりません。学力の定着と向上は、学習内容をインプット学習により理解した上で、類似問題を数多く解いたり、暗記物を書いて覚えるなど、アウトプット学習を繰り返して初めて達成できるものです。さらに、動画教材を見ただけで、どれだけの子が質問へ向かうかも疑問です。
「自主性」をいかに育めるかも突き詰めていく必要がある
ウェブ指導にお金を払う市場は、世界に目を向けると10兆円程度ともいわれています。日本においても、今回の動きは教育サービス革新の大きな第一歩と考えることができますが、同時に「アウトプット」に向かわない子、向かえない子をどうするかが、教育改革の鍵になると考えます。CMや流行に流されることなく、この分野が成熟するためには、まだまだ改良・改善が求められます。
文部科学省では、「2020年度までに児童・生徒1人1台の情報端末整備」を目標にICT(情報通信技術)教育を推進しており、塾や家庭教師の分野でも当然にデジタル教材の活用が急速に広がってきました。技術革新とともに対面型の授業と遠隔授業が、併用される時代になってくることは必至です。「モバイル家庭教師」の波、それは「教育の本質を考える波」でもあると言えます。
教育の「新化」はこれからもますます進みますが、同時に「自主性」をいかに育めるかも突き詰めていかねばなりません。子供たちの「自主性」を尊重し「自分で考える力」を養わせることが、教育の本質であることを忘れてはいけません。
(田中 正徳/次世代教育プランナー)