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正規労働者と同様の責任を課せられるパート、「名ばかり社員」問題は是正されるか

JIJICO 2015年9月3日 18時0分

パートは処遇面では格差が是正されず「名ばかり社員」問題の典型

ニュースなどで取り上げられる非正規労働者とは、期間の定めがある不安定雇用、時間当たりの給与が少ない雇用、キャリア形成の仕組みに組み込まれない雇用と考えられており、派遣労働者、有期雇用労働者、パートタイム労働者(以下「パート」)などが該当します。

中でも、パートに関しては正規労働者と同様の職種や責任を課せられていても、処遇面では格差が是正されず「名ばかり社員」問題の典型となっています。正社員と位置づけると、雇用の安定や継続に関して企業の裁量が効きにくくなることから、形式的にはパートと位置づけ、実態は正社員並みの責任や業務を負うなどの構図になっていると思われます。

「名ばかり社員」は、パート等に正社員と同様の責任や業務を任せることで問題化しますが、そもそも、その業務実態が違法なのではなく、そのような働かせ方のパートと正社員の処遇均衡の問題なのです。

処遇に関して通常の労働者と不合理な相違があってはならない

法律では、業務内容やその責任の程度などが通常の労働者と同様であるパートに関し、差別的取取り扱いを禁止し(パートタイム労働法9条)、処遇に関して、通常の労働者と不合理な相違があってはならないとしています(同法8条)。これは、実態が通常の労働者と同じパートは、すべての待遇が通常の労働者と同じ取り扱いがなされるべきとの考えを示しているものです。

たとえば、正社員とパートが同程度の責任を課せられているのに「パートには賞与を支給しない」「社内の食堂や託児施設の利用を認めない」「研修を受けさせない」といった取り扱いは認められないわけです。処遇に差があるとパートが不信感をもったまま就労することになるため、雇入れ時に改善措置の内容を説明することや、措置の決定について説明を求められた際は何を考慮したか説明すること等を事業主に課すとともに(同法14条)、パートの相談体制についても労働条件の明示事項としています(同法施行規則2条)。

パートの処遇是正を怠ると行政指導や損害賠償の対象に

本年4月からのパートタイム労働法は、通常の労働者との均衡確保を図るための実効性を強くしていると言えます。これら立法姿勢を踏まえると、パートの処遇是正を怠ることで、説明義務違反や相談体制の不備などについて、行政指導や損害賠償の対象にもなりかねません。

一方、従前と異なり、実質的な期間の定めのない雇用契約に限定されていない点は注目すべきところです。その点では、有期契約労働者の労働条件格差の問題と関係してきます。やはり、有期雇用と無期雇用との労働条件についても、パートタイム労働法8条と同様、不合理な相違は許されないとされているのです(労働契約法20条)。たとえば、休暇や休日、諸手当の支給に関して、業務内容や責任が同じなのに無期雇用の社員と差があると感じた場合は、有期雇用のパートが同法20条を根拠に格差是正を主張してくることにもなります。

同一労働同一賃金が叫ばれているものの実現には至っていない状況

このように、立法規定はあるものの、実務上は、パートと正社員、あるいは、有期雇用社員と無期雇用社員の間の処遇格差を意味する「名ばかり社員」問題が歴然と存在しています。とりわけ、処遇の中でも賃金格差の問題はパート等にとって、生活に直結する問題であることから一層の保護が要請されており、従前より、同一労働同一賃金が叫ばれてはいますが、実現には至っていない状況です。

業務内容や責任程度が無期雇用社員や通常の正社員と差がない場合は、労働契約法やパートタイム労働法を十分に理解したうえ、法規定に沿った対応やリスク管理を怠らないように、パート等の納得性のある雇用管理を行うことが「名ばかり社員」問題を解決することにつながると考えられます。

(亀岡 亜己雄/社会保険労務士)

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