水彩絵の具「なまえのないえのぐ」が話題を集める
今年10月発売予定のコクヨグループ「S&T株式会社」による透明水彩絵の具「なまえのないえのぐ」が、発売前から話題を集めています。従来であれば、水彩絵の具には「あか・だいだい・きいろ・きみどり・みどり・・・白・黒」というようにそれぞれ色名が明記されるのが当然でした。ところが、「なまえのないえのぐ」はその常識の枠を超え、名前の代わりにたった3色の組み合わせをドットで表示してあるのみ。パッケージも白に統一し、とてもシンプルな10色パレットになっています。(写真参照)
チューブに表示されているドット3色(赤黄青)は、実は皆さんのよく知っているプリンター(印刷機器)のインクジェットの色と同じです。正確に言えば「マゼンタ、イエロー、シアン」という色材の三原色です。カラー印刷では、この三色の組み合わせから、さまざまな色の違いを作っています。つまり、この3色があればどんな色も作れるということです。
配色の割合をドットによる大小のバランスで表現
この「なまえのないえのぐ」では、配色の割合がドットの大小のバランスで表現されています。さらに、この3色全部を同じ割合で混ぜ合わせてできる色、それが減法混色の「黒」です。また、透明水彩絵の具の場合は、濃淡をつけることが容易であるため、従来の「白」のチューブは、このパレットには省かれています。まず3色単品3本、そして2色をそれぞれ組み合わせてできる6本、そして3色全部を合わせた1本、合計10本です。
さて、この「なまえのないえのぐ」を使うと、どんな色ができるのでしょう。子どもにとっては、手品が始まるようなワクワクした感覚を覚えます。チューブに表示されたドットは子どもにとって、秘密基地の扉の暗号に似ているかもしれません。どんな色の世界が広がるのか、ファンタジーの世界にも誘うでしょう。
「あそび」が想像力を育てる
そもそも、子どもに「あか」や「あお」など、色の「なまえ」は必要なのでしょうか。この製品を目の当たりにして、当然のように使っていた色名は、自由に絵を描いたり、色を塗ったりする子どもには必要なのかと、あらためて考えさせられます。なぜなら、色名は「知識」だからです。「感覚」ではなく、むしろ「思考」によって司るものだと思います。
シュタイナー教育では、子どもは生きていること自体が「あそび」で、「あそび」が想像力を育てると提唱しています。「あそび」の中で自然に触れること、自然に出合うことが感覚を育て、感覚を通して世界を発見していきます。そして、子どもは描き出す色の美しさから、さまざまな感情を生み出すといわれています。
色によって子どもの想像力を育てる取り組みになる
「なまえのないえのぐ」の色あそびは、色感覚だけを受け取ります。子どもには、驚きと喜びの体験になるでしょう。この体験によって、色に興味を持ち、次から次へと混ぜ合わせてみたくなる…こんな「あそび」が子どもの想像力を育てるに違いありません。色あそびの中で広がる自分だけの楽しい世界です。これこそが、色によって子どもの想像力を育てる取り組みになるのではないかと思います。
ある一般社会人に「なまえのないえのぐ」についての第一印象を尋ねると、「面白い」と反応する人、また意外にも「どう使ったらいいのか」と顔が曇る人など、意見が分かれました。固定観念にとらわれている大人にとっては、「きちんと使えるのか」「失敗なく色が再現できるのか」などの不安が先立つようです。「チューブに名前がある方がいい」という意見もあり、そこには、解決策や答えが、すぐに欲しいという社会現象が隠されているように思います。名前のないことを、あなたはどう捉えるでしょうか。時には、ゆっくり想像の世界であそぶことも必要なのではないでしょうか。
(内田 朱美/カラーセラピー・コンサルタント)