死刑回避のための手引きが波紋を呼ぶ
日弁連刑事弁護センター死刑弁護小委員会が、本年10月に死刑事件の弁護活動に役立ててもらうことを趣旨として、「死刑事件の弁護のために」というタイトルの弁護士向けの手引きを発行しました。
この手引きは、死刑事件の弁護経験が豊富な弁護士を中心に、約3年の歳月をかけて作成したと報じられています。内容は裁判員や裁判官に死刑の選択を回避させることが死刑事件の弁護人に課せられた唯一最大の目標であるとして、その目標のため、捜査段階における被疑者には黙秘権の行使を原則とさせること、否認事件や正当防衛事件では被害者が刑事裁判手続に参加することに反対の意見を表明することなどが説明されています。
全体を通してどれだけ残酷な罪を犯した人であっても、「生きるに値する価値を持っている」との価値観を出発点とし、死刑が他のあらゆる刑罰とは異なり、全ての根源である生命を奪ってしまう刑であるがゆえ、死刑を回避するためのあらゆる手段を講じる必要性を説いているように思われます。
被害者参加制度への理解不足や偏見だとの反論も
この手引きの内容に対しては賛否両論あり、特に平成22年に設立された犯罪被害者支援を専門とする弁護士の団体からは、否認事件や正当防衛事件において被害者参加自体に反対の意見を表明するとの点に対し、被害者参加制度への著しい理解不足や偏見に基づくものであるといった反論がなされているようです。
弁護人として、裁判員や裁判官に死刑を回避させるべく尽力することは、その職責として当然のことでしょう。しかしながら、そのような究極の事件に執るべき手段として、この手引きに記載されたことだけを金科玉条の如く扱うこともいかがなものかという気もします。
事件の弁護人を務める弁護士への影響も計り知れない
死刑事件の弁護人を務めるなどということは、そう何度もあることではありません。被告人、被害者遺族、裁判員や裁判官との対峙など、それまでに培われた人生観の全てを持って挑むような事件ですし、そのような事件を担当した経験が、弁護人のその後の深層心理、人生観・職業観などにどのような影響を与えるのかも測り知れません。
どのような弁護活動をしようとも、結局は弁護方針について自問自答を繰り返しながら行うことになるでしょう。また、それは事件が終わってからも繰り返されることになるのではないでしょうか。
(田沢 剛/弁護士)