復活しつつある「社内行事」
1990年代初頭に起こったバブル崩壊からの長引く景気低迷によって、日本企業は「成果主義」に大きく舵を切りました。日本企業の特徴でもあった終身雇用も崩れ、成果主義人事制度が大流行。バブル崩壊までは存在していた人々が集うコミュニティーとしての企業機能が失われ、働く社員は成果を生み出すための要素として考えられるようになりました。
そのような時代背景の中で、社員旅行や「飲みニケーション」、社員運動会などの社内行事が廃止となりました。「成果につながらなければ人間関係が良くても意味がない」という意図です。しかし、近年社内の人間関係をより良くするため、社内行事が復活している傾向にあります。私の顧客でも、社員旅行を数年ぶりに復活させたり、社内ゴルフコンペを行ったりする企業が増えています。
社内の人間関係が成果に影響を与える
社内行事が復活しているのは、成果主義が台頭する中で社内の人間関係が破壊され、それが企業業績にも悪影響を与えることが経験則で感じられたという背景があります。社内の人間関係が悪くなることで、最も影響を受けるのが「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」です。いくらホウレンソウがルールによって決まっていたとしても、嫌いな人やあまり知らない人とはどうしてもコミュニケーションが希薄になります。
特に近年では、企業の競争力の源泉が、「知識」や「情報」をどれだけ蓄積・活用できるかに移ってきました。社内のコミュニケーションが希薄になれば、有益な知識や情報が組織の一部分に滞留し、組織内で共有されなくなります。そのことが、非効率を生み出したり、ビジネスチャンスを逸したりする事態を招いてしまいます。また、問題が複雑化してくれば、一個人の力では解決できなくなります。問題に関わる当事者全員で問題解決に当たらなければなりませんが、人間関係が希薄であればチームとして機能するはずがありません。
現代だからこそ、社内行事のような人間臭い取り組みが大切
マサチューセッツ工科大学教授のダニエル・キム氏は、「結果の質(成果)」を高めるためには、チームの「関係の質」を高めることが必要だと主張しています。関係の質を高めるための最初の第一歩は、まずは「仲良くなる」ことです。仲良くなるだけでは問題解決できるチームにはなれませんが、仲の良いチームの方が関係の質が高まっていく可能性は大きくなります。このことは、自分の身近なところを思い返しても説得力があるように思えるではないでしょうか。
近年になって復活してきた社内行事も、関係の質を高めるために有効な施策です。インターネットが発達し、直接のコミュニケーションをとらなくても仕事を進められるようになった現代だからこそ、社内行事のような人間臭い取り組みが大切なのかもしれません。
(福留 幸輔/組織・人事コンサルタント)