米国では民間企業が社会貢献として教育事業へ参入?
Googleのエンジニアがサンフランシスコで開設した「AltSchool」 は、ICTを駆使して生徒一人ひとりに最適な学習カリキュラムを提供することが人気を呼び、今秋200人の募集に対して3500人もの応募があったそうです。ベンチャーキャピタルなど投資家の評価も上々で、合計1億ドル(約120億円)の資金調達に成功し、ニューヨークやシカゴへと全米展開を予定しています。その投資家の一人が、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグ氏です。彼自身もサンフランシスコで低所得者向けに病院併設の小学校設立を計画しています。
Facebookは企業としても、アメリカで最も早くブレンディッドラーニングを導入した学校に2年前から技術者を6人出向させ、個別カリキュラムを管理するためのソフトの開発を支援しました。また、オラクルは創業者のエリソン氏長年の夢を叶えようと、シリコンバレーの自社敷地内に学校を設立する計画を発表しました。こうした教育事業に共通しているのは、従来の集団画一教育とは正反対の自由な個別カリキュラムで、営利目的というより社会貢献としての意味合いが強いことです。
オランダでも教育の自由化と手厚い公的支援が
一方、世界で最も教育の自由化が進んでいるとされるオランダでは、好きな学校を選ぶことができ、行きたい学校がなければ自ら学校を設立することも可能で、しかも校舎は地元自治体から提供されます。そのうえ、生徒数に応じて補助金が交付され、授業料は16歳まで無料、教員の給与も国から支給されます。こうした手厚い公的支援と自由な教育制度のもとで、20年30年先の「新時代の教育」を見据えて2013年に設立された学校が「Steve Jobs School (SJS)」です。
SJSの対象年齢は4歳から12歳ですが、年齢別の学年もなければ、○年○組というクラスもありません。生徒の学力や興味関心に応じて学習カリキュラムを個別に作成し、生徒は時間割に従って科目別の教室を移動しながらマイペースで学習を進めます。校名にアップルコンピューター創業者の名前が付いている通り、全生徒にiPadが配布されて授業も教科書も時間割も宿題も管理します。
欧米諸国に比べて時代遅れの日本
こうした欧米諸国に比べ、日本の教育行政は審議会や有識者会議などで何年も議論を重ね、実際に実行されるのはさらに数年先という状況です。21世紀を生きる子供たちにとっては、絶望的に時代遅れです。前国会では成立に至らなかったフリースクールを義務教育として認知する法案も国が教育を管轄するという大枠を撤廃するわけではなく、枠を若干広げるに過ぎません。アメリカのように教育に特化したベンチャーキャピタルや財団もなければ、オランダのように政府の手厚い支援も期待できない日本で新しい教育に取り組むには、文字通り私財を投げ打つ覚悟が必要なのです。
明治から百年以上続く受動型集団画一教育は、昭和の高度経済成長を支えた勤勉で従順なサラリーマンを大量生産するには有効でした。しかし、バブルがはじけ人口が減少し始めて経済が停滞し、TPPへの参加やオリンピックの開催で否応なくグローバル化を迫られる21世紀の日本に相応しい教育制度を構築するには、新任の馳浩文科大臣がプロレスラー時代に必殺技としたノーザンライトスープレックスのように旧来の教育政策を根底から覆すしかないのです。
(小松 健司/個別指導塾塾長)