低血糖の原因や症状、予防策とは
先日、大阪で車の暴走事故によって運転手の男性が起訴されました。男性は糖尿病で治療薬のインスリンを摂取後、適切な時間に食事を取らずに低血糖症だった疑いが持たれています。糖尿病は血液中のブドウ糖濃度「血糖値」が高くなり、「高血糖」状態となることによってさまざまな障害を引き起こす病気です。しかし、糖尿病の治療中は逆に「低血糖」に陥り、重篤になると「意識障害」から「糖尿病性昏睡」と呼ばれる状態となり、生命の危機にまで及ぶこともあります。
「低血糖」は血糖値が50-60mg/dl以下になった状態を指しますが、血糖値の高い人や急激に血糖値が下がったときには、100mg/dl程度でも「低血糖」の症状が出ることもあります。それではなぜ、「高血糖」状態であるべきはずの糖尿病で「低血糖」状態になるのでしょうか。その原因や「低血糖」時の実際の症状、予防策などについて紹介します。
糖尿病患者が必要なインスリンの量は絶えず変化する
糖尿病は本来、血糖を下げるホルモンであるインスリンが十分に出なかったり、効きが悪くなったりするため、十分に血糖値を下げることができない病気です。そこで、糖尿病治療の際には、インスリンを出すように促す薬やインスリンそのものを注射で投与したりすることで、血糖値を下げるように薬物治療を行うことがあります。
糖尿病患者が必要とするインスリンの量は、1日の中でも絶えず変化します。食事量の増減や食事の間の間隔、運動量の多さなどで変化するにもかかわらず、一定量の薬をそのまま服用したり、インスリンを投与されたりすることで時間帯によって必要とする以上のインスリンが作用してしまい、血糖値が下がり過ぎて「低血糖」を起こしてしまうことがあるわけです。
健康な人では、血糖値が下がると血糖を上げるホルモンが分泌されることで血糖値を正常域に保とうとしますが、糖尿病患者の場合、インスリンの分泌が悪くなっているのと同様に血糖を上昇させるホルモンの分泌もよくないことが多く、さらに低血糖を促してしまうことにもなるのです。
自分の症状の特徴をよく記憶し、早急な対処が必要
低血糖の症状としては、あくびや不快感、急激な空腹感、だるさ、眠気、頭痛、発汗、手足のふるえ、吐き気などのさまざまな症状が出現します。ただし、このような症状は、誰しもが同じように段階を追って出現するわけではないので、その点も気をつけなくてはならないところです。もし、低血糖を経験したことがあれば、自分の症状の特徴をよく記憶して、次に現れるようなことがあったら、すぐに対処できるようにしなければなりません。
上記のような低血糖と思われる症状が起きてしまったときは、吸収のいい糖質10~15g(ブドウ糖・砂糖・ジュース)をとって安静にし、10~15分ほど待ってもよくならないようなら、さらに同量を追加します。症状が治まれば、食事がまだの場合は食事をとり、そうでない場合はご飯やパン、ビスケットなどの炭水化物を食べるなどの対応が必要です。
低血糖を起こしたときに車を運転していたら、安全を確認した上で、すぐに路肩に停車してから糖分を摂取します。我慢して運転を続ければ事故の原因になり得るため、とても危険です。外出時は常にブドウ糖や砂糖を持ち歩くようにして、すぐに手の届くところに持っているようにするなどの対応も必要でしょう。
(佐藤 浩明/消化器内科専門医)