起業予定の退職者は失業手当がなし?
勤めた会社を辞めた後、失業保険を頼りにする人も多いと思いますが、先日「起業のために辞めた場合は、失業手当がもらえない可能性がある」との記事を見かけました。そもそも、失業手当をもらうためには、会社を退職して雇用保険の被保険者期間(賃金支払基礎日数が11日以上)が退職日前2年間(疾病・負傷等のため欠勤がある場合は最大4年間)で12か月以上あり、かつ「失業」状態である時に支給されます。
この「失業」の定義は、「労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない」ことを指します。「意思」及び「能力」を有していなければならないとは、例えば病気で会社を退職した場合、当然働く能力はありません。そのため、病気が治癒するまで失業手当はもらえません。治癒後に、失業手当をもらうことになります。また、飲食店を開業するために退職した場合も当然、他で働くことはないため、働く意思がないと見なされてしまいます。
開業(起業)準備行為までは失業手当が支給されることに
それでは、起業を考えている人は失業手当がもらえないのかとなると、そうでもありません。上記原則は変わりませんが、開業(起業)をするため退職した場合でも、しばらくはその勉強を行ったり、研修を受けたりすることもあります。この場合、実際の開業(起業)手続きに入るまでは失業手当は支給するよう、平成26年7月に業務取扱要領が改正された際、それをより明確にしました。取り扱いは変わりませんが、安倍内閣の成長戦略で開業率をアメリカ並みの10%にしたいという思惑のもと「求職活動中に創業の準備・検討をする場合」も生活を安定させるために失業手当を支給することを、より明確にしようとなった訳です。
「自分は開業(起業)予定だから、失業手当はどうせもらえない。職業安定所へ行って手続きはしなくていいや」と思っている人は、少し待ってください。もしかしたら、失業手当がもらえるかもしれず、今まで払ってきた雇用保険料が掛け捨てにならずに済むかもしれません。一度職業安定所へ行って、相談してみましょう。
働く意思がなくなったと見なされれば失業手当は打ち切り
ただし、求職活動も同時並行で行わなければならず、事業の事務所(店舗)の賃貸借契約を交わしたり、フランチャイズ契約を締結して純然たる開業準備に入ったりしてしまえば、その時点で失業手当は打ち切りとなります。なぜなら、働く意思がなくなったと見なされるからです。
そのため、在職中に十分準備して、退職後は一気に開業(起業)に突っ走ってそれに専念するというような人も対象外のため、ご注意ください。また、失業手当は、「自己都合」退職の場合には給付されるまで、3カ月間の給付制限もあります。3カ月以内に純然たる開業準備に入ってしまうのであれば、結局もらえないということもあります。この点についても、ご注意ください。
(影山 正伸/社会保険労務士)