各都道府県で「解消」のニュアンスは異なる
先日、文部科学省から「いじめ解消率」が発表されました。解消率とは「いじめの解決数÷いじめの認知件数」で計算されます。発表では解消率が88.7%とのことで、つまりいじめの認知件数の9割近くが解消したということです。
では、「解消」とはどんな状態を指しているのでしょうか。「朝日新聞DIGITAL」の2015年10月29日の記事によると、解消率98.3%である愛媛県では「いじめ行為がなくなったかどうかに加え、本人や保護者に聞き取り、様子を一定期間見るなどして解消かどうか客観的に見ている」、解消率が70.9%の静岡県では「いじめは簡単になくならないという認識で対応し、解消も楽しく学校に通えるようになった状態で、認知したいじめのうち24.3%を、解消まで一歩手前の一定の解消が図られたが、継続支援中の状態とした」とされています。これだけを見ても、各都道府県によって「解消」のニュアンスが異なることが分かります。
調査であれば対象を客観的に計測する必要がある
調査をする際、調査対象の概念を統一する必要があります。何について調べるのか、数える人によってニュアンスが違えば、それぞれの調査員が違ったものを数えることになり、その調査は意味をなしません。この調査も、「解消」とはどういう状態かについて厳密に統一していかなければならなかったはずです。
では、いじめの解消の概念を統一することはできるのでしょうか。どうなれば、いじめは解消したといえるのか。いじめの行為がなくなれば解消なのでしょうか、いじめた子が反省したら、いじめによる心の傷がなくなれば解消なのでしょうか。また、調査するのであれば、その対象を客観的に計測する必要がありますが、反省や心の傷は客観的に計れるものなのでしょうか。
現在、いじめに遭っている子どもを救うためには
文科省のいじめの定義は「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」としています。いじめは主観的なものであり、客観的なデータにはなじまないものなのです。
無理やり数えたいじめの解消率が減ろうが増えようが、「今ここで」いじめに遭っている人には関係のない話です。現在、いじめに遭っている子どもを救うため、数の増減を気にするのではなく、いじめがどれだけその子どもの心を蝕むものかに目を向けてほしいと思います。
(船越 克真/教育カウンセラー)