パリ同時テロを受け、日本でも「共謀罪」創設を求める声が
先日起きたパリの同時テロを受け、日本においても「共謀罪」の創設を求める声が上がっています。「共謀罪」とは、端的にいえば「特定の犯罪について、2人以上の者が話し合って合意すること」を処罰の対象とする犯罪です。2000年11月15日に国連総会において採択された「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(国際組織犯罪防止条約)は、マフィアなどの経済的利益を目的とする組織犯罪を対象とし、締約国に共謀罪の犯罪化を求めました。しかし、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを契機として、テロ対策に利用する動きが出てきました。
日本の現行刑罰法令には、組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の共謀行為を罰する規定はありません。この条約を批准するために共謀罪を新設する法案が何度も国会で審議されてきましたが、いずれも野党の反対などで廃案に追い込まれました。しかしながら、今般のパリ同時テロ事件をきっかけとして、与党から再び「共謀罪」の新設の必要性を訴える動きが出てきたということです。
「共謀罪」の創設は処罰する範囲を広げることを意味する
確かに、テロを未然に防ぐために共謀行為そのものを犯罪行為として処罰することは、国民の生命・身体の安全を守るために必要だとし、これに賛成する向きもあります。しかしながら、日本の刑罰法令は、基本的には保護されるべき法益を侵害した場合、すなわち既遂の場合に処罰するものとしています。
例外的に未遂であっても「法益侵害の危険性を発生させた」ことを理由に処罰し、さらに殺人、放火などの重大な犯罪に限定してさらに例外的に未遂よりも前の段階である予備行為を処罰する建前を採っています。共謀は予備行為の一種であるため、重大犯罪以外でも共謀行為を処罰するような共謀罪を新たに設けるということは、これまでよりも処罰する範囲を拡げることになります。
市民のプライバシーが侵害される懸念も
また、そもそも共謀行為は、いわゆる犯罪の合意をすることであり、そのような合意があったか否かをどのように認定するか、第三者から見て判別しにくい段階を処罰の対象とすることは、捜査機関の恣意的な検挙につながる恐れもあります。よって、市民のプライバシーを侵害するような新たな捜査手法、例えば室内盗聴や潜入捜査等を広範囲に許容する懸念があり、それは監視社会を受け入れることを意味します。以上のような懸念から、いまだに日弁連をはじめとして反対意見が根強い状況にあります。
国民の生命・身体の安全は、国民が享有する基本的人権の源泉となるべき究極の価値であるため、国家がこれを保護する役割を果たすことは当然です。しかし、それが行き過ぎれば、逆に国民の基本的人権をないがしろにしてしまいかねないという矛盾を孕んでくるところに問題があります。このあたりのバランスをどのように取るべきなのかが問われており、慎重な議論が求められるところです。
(田沢 剛/弁護士)