私立中学への進学率は都市圏ほど高い
年が明けて受験シーズンもいよいよ佳境を迎えます。私立中学への進学率は全国平均では約7%ですが、この比率は横浜市では2倍に、東京23区では4倍にも跳ね上がります。近隣に授業料タダの公立中学がありながら、多くの生徒が100万円近い大金を払ってまで遠方の学校へ通う背景には、何か特別な理由があるはずです。
例えば、「興味のある分野が勉強できる、習いたい先生がいる(積極的理由)」「地元公立中学に通えない、通いたくない(消極的理由)」などです。しかし現実には、それまで一緒に遊んでいた友達が急に塾へ通い始めたのを見て、「皆が受験するからウチの子も」と明確な目標も考えないまま塾へ相談に訪れる保護者が毎年春先になると増加します。
明確な理念を持たない中学受験の危険性
こうして確固たる受験目的もなく、周囲に流されるままピアノや水泳など習い事をやめ、中学受験専門塾へ週に3日も通い始めます。週末はテストで時間が取られ近所の友達とも疎遠になり、小学生らしい遊びのできない生活が始まります。保護者にとっても経済的負担が大きいだけでなく、連日お弁当を作り、夜遅くに塾への送迎をし、自宅でも大量に積まれた宿題と格闘することで心身共に疲弊していくでしょう。
もともと受験目的がはっきりしていないため、何のために苦しい思いをしているのかモチベーションを維持できず、家庭内での不協和音が徐々に大きくなっていくかもしれません。私立中学への進学には反対ではありませんが、こうして考えてみると、明確な理念を持たずに中学受験を決めた場合には、子ども・保護者双方にとって不本意な結果を招くことを理解することが必要です。
私立中学の過半数の生徒が学習塾を利用している
また、中高一貫校では高校受験がないため、「6年間のびのびと過ごせる」との声も聞かれます。しかし、それは大きな幻想であることを認識してください。多くの中高一貫私立校では、大学入試を見据えて高校2年までの5年間で中高6年分の学習を実質的に終えてしまうため、公立に比べて授業のスピードは速く、勉強の量も質も厳しくなることはあっても、楽になることはありません。
実際、学校の授業に付いていけないからと、学習塾へ通う本末転倒な私立中学生もいます。文科省による「子どもの学習費調査」によれば、中学生の学習費総額は公立で平均482,000円、私立1,339,000円と3倍近い開きがある一方、このうち学習塾にかける費用は公立292,000円、私立252,000円と大差ありません。私立中学へ行っても過半数の生徒が、何らかの形で学習塾を利用しているのです。
偏差値や模擬試験判定を基準に進学先を選択すべきではない
確かに、私立は公立に比べて施設が充実し、芸術関連の行事なども豊富であるという利点はあります。しかし、学校という枠にとらわれず、さまざまな体験をする方が良いという考えもあります。また、私立では「異端分子」は排除されて校内の秩序が守られ、意識の高い級友と切磋琢磨できるということもよく聞きます。この点についても、日本のような単一民族国家では、むしろ多様な意見や背景を持つ人間と付き合う機会こそ貴重だという意見もあります。
結局、中高一貫私立校の最大の利点は、カリキュラムの柔軟性が相対的に高いため、学校ごとに特色が異なることではないでしょうか。何でもかんでも「私立>公立」と盲目的に信じ込むのではなく、我が子の長所や個性を伸ばすにはどのような教育がベストなのかじっくりと検討したうえで、最終的に「私立○○中学の学習環境が最適」という結論に至れば良いのです。子どもの特性を一番理解しているのは保護者のはずですから、偏差値や模擬試験の判定を基準に我が子の教育を選択するのは、親としての責任放棄にほかなりません。
(小松 健司/21世紀教育応援団)