住宅ローン金利は、軒並み過去最低水準。
日本銀行が、我が国初となるマイナス金利政策を2016年2月16日からスタートさせました。金利を低く誘導することで景気を回復させ、デフレからの脱却を図ることが目的です。政策がスタートしてから狙い通り市場金利は下がったものの、市場の先行きは見えないなかで、住宅ローン金利は、軒並み低下し過去最低金利を更新しています。
各銀行の住宅ローン顧客争奪目的の低金利競争は、マイナス金利導入以前の段階で既に激しいものがありましたが、マイナス金利導入後はさらに激しさを増し、本格的な低金利競争に突入しました。三井住友銀行は2月16日にいち早く10年固定型の最優遇金利を年0.9%に引き下げ、その後、三菱東京UFJ銀行が10年固定を年0.8%に下げて三井住友銀行を追い抜きトップになったかと思いきや、みずほ銀行もすぐに追随して10年固定を年0.8%としました。すると三井住友銀行も年0.8%に合わせてきて、マイナス金利導入から2週間で、10年固定は、3メガバンク揃って、過去最低水準を更新する年0.8%となりました。
信託銀行も負けてはおらず、10年固定の最優遇金利は、三菱UFJ信託銀行が0.55%、三井住友信託銀行は最も低い年0.5%に引き下げました。
また、全期間固定金利のフラット35も、(融資率9割以下の場合)2016年3月時点で、取扱金融機関が提供する金利で最も多いのは、借入期間15年~20年が年1.02% 、21年~35年では年1.25%となり、やはり、史上最低金利を更新しました。
変動金利は、住信SBIネット銀行やじぶん銀行で年0.568%、ソニー銀行も、新規購入で自己資金10%以上の人は年0.519%としています。
住宅ローン金利低下により5年前と比べても返済総額は大幅に減少
住宅ローンの金利がこれだけ下がれば言うまでもなく、住宅ローンを使ってマンションを購入したいという人にとってのメリットは大きくなります。
実際に、金利が下がるとどのくらい支払額が変わるのか?
5年前の3月と今年の3月を具体的に比較してみましょう。
仮に3,000万円を全期間固定金利で(返済期間35年)借りたとすると、
5年前の2011年3月の時点では、金利は年2.54%でしたので、月の返済額は107,893円、返済総額は45,315,060円でしたが、今年3月は金利が年1.25%ですので、月返済額は88,226円、返済総額は37,054,920円となります。
その差は、月で19,667円、総額では8,260,140円にもなります。
(ARUHI(旧SBIモーゲージ)フラット35のケース)
仮に同じマンションを購入し、同じ金融機関から融資を受けるとした場合、購入する時期によって、これだけの差が生じます。
「住宅ローン控除」の利用で、リターンが出ることも。
また、これだけ金利が低くなってくると、住宅ローン控除を利用できる場合、10年間は支払利息額より、得られる住宅ローン控除額(減税額)のほうが多くなるケースもあります。
(現在の住宅ローン控除は住宅ローン年末残高の1%が10年間、所得税と住民税から控除されます。その結果、例えば前述の三井住友信託銀行のケースでは住宅ローンの利息が(10年固定で)0.5%とするとそれ以上に税金が安くなることから、まるで利回り0.5%の金融商品で貯蓄をしているかのような効果が生まれる場合があります。)
但し、10年固定型は当初10年間の金利のみを固定し、11年目からはその時点の店頭金利を基準とした金利に変更になることから、金利が上昇した場合のリスクがありますので、注意が必要です。
「マイナス金利」マンション購入者にとってのデメリット。
一方、マンション購入希望者にとって、マイナス金利導入により、次のようなデメリットが生じることも考えられます。
1,マンション価格のさらなる上昇の可能性
住宅ローンの金利低下によってマンション購入希望者が増えた場合、ようやく落ち着きを取り戻そうとしていた中古マンション価格が再度上がる可能性が考えられます。
(日本より先にマイナス金利を導入したデンマークでは、導入後住宅ローンの金利が低下したことにより住宅市場が加熱して不動産価格の上昇が起きた例もあります。)
価格の上昇が起きると、本来、そのエリアや物件がもつ実際の資産価値より高い価格での購入となる可能性が高くなりますので注意が必要です。
高騰している時に異常に高く買うと、将来、不動産価格の高騰が終息に向かい、本来の価値に戻った場合、それだけで数千万円という損をする可能性があります。(例えば10年間で、1000万円や2000万円を価格の下落によって失う場合もあります。そうなると当然、低金利のメリットより、価格下落のデメリットの方が上回り、大きく損をします。場合によっては、ローンの残債や月支払額より、売却価格や貸した場合の賃料のほうが下回り、「売れない」、「貸せない」といった状況に陥ります。
2.優良物件がなかなか購入できなくなる可能性。
エリアによっては今でも需要に対し供給が充分とは言えない状況ですが、金利低下によって、さらに購入希望者(需要)が増えた場合、供給が不足すると思われるため、競合が増えて、優良物件がなかなか購入できなくなる可能性が考えられます。
3,住宅ローンの審査が厳しくなる可能性。
今年に入って銀行は、融資獲得のために競合銀行に負けまいと優遇金利幅を最大にし、史上最低水準を更新する形で低金利競争を繰り広げていました。しかし、そこに「マイナス金利」が導入され、もう既にかなり低くなっている金利から、さらなる引き下げ競争を余儀なくされることにより、収益が悪化する可能性があります。そうなると銀行は住宅ローン借入者が万一返済できなくなった場合に持ちこたえられるだけの余力が減っていくことになります。
このことから、今後、銀行側としても、住宅ローンの審査を厳しくして、少しでもリスクの少ない優良顧客を得ようとするのではないかと考えられます。
4.借りる側の「住宅ローン選定」がより複雑になる可能性。
今までは、「住宅ローン金利は現在が最低(いわゆる「底」)で、もうこれ以上は下がらない」と思われていたため、「金利上昇のリスク」をメインに考えて住宅ローンを選定することが多かったのですが、マイナス金利政策下では、今後「もしかしたら金利がさらに下がるかもしれない」ということも考えられるようになりました。
「今後、日銀がマイナス金利の幅を拡大していった場合は、金利が更に下がる可能性もあるので、現在の金利で長期固定化してしまうのは損なのではないか」や「金利が下がった場合の恩恵を享受するために変動金利にしておいた方がよいのではないか」など、気持ちが揺れることにより、住宅ローン選定が今までより複雑になり、その分、リスクも増えるのではないかと思われます。
変動金利は、今後下がる可能性がないと言い切ることはできませんが、当然、長い返済期間のなかでは金利が上がるリスクがあります。
ですので、やはり、住宅ローンを組む際の考え方のベースとして、まずは「全期間固定金利」を基本とするのが安全と思われます。
そしてその上で、本来「全期間固定金利」の返済額を支払うことができる人が、「全期間固定金利」で借りたと仮定して、あえて戦略的に「変動金利」で借り、実際の変動金利の返済額と固定金利で組んだと仮定した支払額の差額を別口座などにきちんとプールしておくことにより、いつでも返せる状態をつくっておけるのであれば、それでもよいのではないかと思います。
そのような戦略がなく、ただ単純に「マイナス金利の超低金利下で住宅ローン控除もあり、短期で売却を想定しているから」などという理由で、変動金利を利用し毎月ローン返済で家計がいっぱいいっぱいになり貯金ができないほどの融資を受けると、目論見通りにいかなくなった時に、当然に様々なリスクがありますので、注意が必要です。
人生は色々なことが起きます。突然の予期せぬ出来事にも対応できるように資金計画は安全確実に見ておくことが大切です。
この歴史的な超低金利はチャンスでもある。
マイナス金利で、「低金利」ばかりに目が行き、「金利が下がっているうちに急いで買わなきゃ!」と焦って盲目的になり、本来の資産価値より大幅に高い価格や、安全性に問題があるマンションをつかんでしまってはいけません。
しかし、マンション購入希望者にとっては、この歴史的低金利は魅力です。
そのことを最大限に利用しつつ、冷静にマンション選びのポイントを押さえて買うことにより、他の時期に比べ、有利にマンションを手に入れられる最大のチャンスでもあります。
(後藤 一仁/不動産コンサルタント)