女性はこどもを2人産むべき発言がもたらした波紋
「女性にとって最も大切なことは、こどもを2人以上産むことです。(略)なぜなら、こどもが生まれなくなると、日本の国がなくなってしまうからです。」
一見するとごく当たり前のことを言っているように思えますね。日本は今子どもが少なくなっています。
女性が子どもを産むことは,日本という国がこれからも発展していくためには必要なことです。
しかし私は,この発言は大きな問題を抱えていると考えています。
こどもは日本を発展させるために生まれてきたわけではない。
ざっくり言えば,日本で生まれた子どもは自動的に日本国民になり,大人になって仕事をしたりボランティアをしたりで社会貢献をしていくわけですから,「結果として」日本を発展させることにはなります。
しかし,だからといって子どもは日本を発展させる「ために」生まれてきたことにはなりません。
昔,障害などがあって働けない,つまり社会貢献できない人を排除する考えがありました。
この考えに基づいて,多くの障害を持つ子どもが社会から消されていきました。
社会に貢献できない子どもは存在価値がなかったのです。
今はそんな考えは否定されています。障害があろうとなかろうと,社会に貢献できようができまいが,その子はその子自身の生きていく価値があると考えられています。
しかし,日本を発展させるために子どもを産め,という考えは,日本を発展させるのに貢献できない子どもに価値がないとする昔の考えにつながる危険があります。
その子が仕事やボランティアなどで自分を実現させていく。
その結果,誰かの世の中の役に立ったら,それが社会貢献ではないでしょうか。
社会貢献はあくまでもその子の存在の「結果」であり,それをその子の存在の「目的」にしてはいけないと考えます。
子どもは誰のためでもない自分のために生まれて存在するものです。
そうみんなが認めることが,子ども個人の尊厳を認めるということです。
「日本を発展させるために子どもを産みなさい」では,戦前の,子どもを兵隊さんにするために「産めよ増やせよ」とのスローガンと全く同じ発想です。
戦前の,子どもを国のための駒と考えることへの反省のもと,子どもの個人としての尊厳を守るために戦後の教育や子育ては進んできたはずです。
個人としての尊厳を大事にする考えが大切
今世の中は閉塞感があって,子どもが減ると日本という国がなくなってしまうのではないか,子どもが減ると経済は発展ができなくて,今のような生活はできなくなってしまうのではないかと,少子化に危機感を持っている人が増えているようです。
たしかに今後少子化が進むと,国がなくなるとまでは言いませんが,今までのような豊かな生活はできなくなるでしょう。
しかしだからといって,私は,国のために存在することを強要されるようなことはあってはならない,どんな世の中になっても個人の尊厳をベースにすることを外してはいけないと考えています。
この発言には,生まれてくる子どもの,世の中に貢献する人としての尊厳はあっても個人としての尊厳を大事にする考えが見えなかった。それが,私が考えるこの発言の問題点です。
(船越 克真/教育カウンセラー)