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中小企業のベアがはじめて大手企業を上回った背景に何があるのか?

JIJICO 2016年4月17日 12時0分

中小がはじめて大手を上回った金属労協ベア

製造業の労働組合で組織する金属労協は4月4日、2016年の春闘で、基本給を底上げするベースアップ(ベア)の平均額について、中小企業が初めて大手企業を上回ったことを発表しました。
大手の賃上げを中小が追随する従来のパターンからすれば異例のことです。
金属労協の相原議長は「中小の一定の金額を獲得できる土壌が整った。新しい春闘の枠組みが始まった」と述べましたが、果たしてそうでしょうか。

中小が大手を上回ったのは、中小が上げたのではない

 ベア妥結額は、中小(組合員数299人以下)が1281円(前年1631円)。
それに対し、大手(1000人以上)が1122円(同2265円)、300~999人で1128円(同1777円)でした。

中小がベアにおいて大手を逆転したのは、このように中小がアベノミクスの恩恵を受けてベアを前年より上げられたのではありません。
逆に中小はベアを前年より下げていますが、大手がそれ以上に下げたために逆転となったのです。

大手との収入格差はこの数年拡大し続けている現状

株式会社北見式賃金研究所が、国税庁民間給与実態調査最新版から2014年分と2012年分給与を「800万円超」、「800万円以下」、「400万円以下」の3つの層に区分し分析しています。

それによると、「大手 男性 正規」は、「800万円超」14.3%増、「800万円以下」0.7%減、「400万円以下」11.9%減。低い年収の層が減り、高い年収にシフトしています。

一方「中小 男性 正規」は、どうだったのでしょうか?「800万円超」:増減なし、「800万円以下」8.5%増、「400万円以下」1.9%減。低い年収の層がわずかに減り、800万円以下の層にシフトしています。
それは「低かった年収が、多少マシになった程度」です。
このように、この数年で大手と中小の収入格差は拡大していたのです。

人材確保問題が深刻で仕方なく中小が実施したベア

中小では人材確保問題がより深刻になってきており、求人難による倒産が増えてきています。
東京商工リサーチによる「人手不足関連倒産集計」によると、従来は「後継者難」型と「従業員退職」型が中心でしたが、最近は「求人難」型もみられ、人手不足や人件費高騰は中小企業経営の重要課題になっているとしています。

アベノミクスの恩恵が及んでいない中小の業績からすれば、ベアを実施する余裕はほとんどないはずです。
しかし、人材確保が会社継続の最優先課題となり、もう業績どころではありません。仕方なくベアを実施したというのが真相でしょう。
さらに、少しでも収入格差を是正しないと人材を大手に取られる一方になる、という危機感から、中小がベアをあまり下げられなかったというのが事実で、下げる必要がなかったわけではないのです。

しかし、業績が上向いているわけでもないのにベアを実施せざるを得ない中小が、今後も事業を継続できるかどうかは不透明と言えるでしょう。

(米津 晋次/税理士)

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