不動産市場は分けてとらえる、時系列で見ることが必要
最近の記事や出版物にて「不動産市場ピークアウト」「賃貸空室率上昇」「空き家問題」など、少子高齢化や円高を背景に不動産関連の記事について取り上げられる機会が多くなったと感じます。
それらを読み手として正しく理解するのは、「分けてとらえる」「時系列で見る」ことが必要ではないでしょうか。
不動産市場という言葉は、単一市場取引が中心の株式市場、為替市場などの言葉とリンクし、同一視されがちです。
しかし、不動産市場の特性を正しく理解するには、個別性、出口戦略やエリア、将来人口推計も踏まえた長期的な視点も必要になります。
住宅用不動産の特性をキーワードからひも解いてみたいと思います。
地価は依然として2極化 マンション価格は高騰気味
まず不動産を土地と建物に分けてみましょう。
土地は毎年に発表される「公示地価」「基準値地価」変動率が指標になります。
この指標は用途別に商業地、住宅地、エリアも都市圏、地方圏に分けられています。
最近の傾向として、都市部商業地の地価上昇につられ、都市部住宅地が上昇に転じています。
一方、下降し続けているエリアもあり、依然として2極化しています。
次に建物は、作り手側の市場指標や経済指標として、新設住宅着工戸数があります。
最近、住宅ローン金利低下による買い時感の上昇や、平成27年相続税改正により都市部相続対策目的の賃貸供給も増え、90万戸台に回復してきています。建築費については「建設工事費デフレーター」が指標となります。
これらの全体市場を俯瞰するには国交省の不動産価格指数(2010年を100)が参考になります。
2016年3月時点の全国指数では、マンションのみ127.4(前年同期比+5.7%)と大きく伸長している一方、住宅地96.8(+0.2%)戸建住宅101.3(-0.2%)となっています。
リーマンショック時からマンションは30以上、指数が上昇しました。
賃貸空室率上昇が意味するもの
賃貸空室率上昇は、賃貸需要年齢層の人口減少エリアと、都市部相続税対策を背景とした供給過剰エリアの2面から見る必要があります。空室率上昇は、「借り手」としては家賃が上がらず、立地、建物性能の選択機会が増え、「貸し手」から見れば経営収支を悪化させます。どちらの視点で見るかによっても評価が分かれます。
賃貸経営を相続税、所得税対策手法と考え節税効果を目的としている場合、20〜30%の空き家率は想定内としている方もおられます。
また、リートは適正配当を行うことで、利益の90%には課税されない仕組みがあります。
単純に賃貸利益を求めている方にしてみれば、勝負になりません。
実需の他に「投資」「節税」というキーワードでの見かたも必要になります。
実需以外で価格形成されてきた都市部マンションに異変
特に都市部マンションは相続対策資金や円安を背景とした外資も入りやすく、実需以外での価格形成も成り立っていました。
実需中心の戸建住宅とは違う市場性です。ここでも「マンション」「戸建住宅」の性質の違いの理解が必要です。
最近の円高による外資引き上げ予想や、売却用中古マンション在庫増加などから、都市部マンションは価格調整段階へと理解してかまわないと思います。
それを不動産市場全体としてとらえてしまいますと、判断を間違えることにもなりかねません。
しかしながら、高額マンション動向は不動産市場をリードしてきたイメージが強い分、住宅地、戸建住宅市場に与える心象的な影響は否めません。
さらに、現在850万戸と言われる空き家は、住宅ストック数が世帯数を上回った昭和43年から既に存在していました。
この問題は日本人の新築志向が強い内部要因と、土地政策を含めた建築行政が新規取得を前提としていたことにあると思われます。
不動産市場という言葉は、多面的にとらえる必要があると、少しご理解いただけたでしょうか。
(屋形 武史/住宅コンサルタント)