発達障害の一つであるADHDとは?
発達障害の一つであるADHD(注意欠陥多動性障害)は、全人口の3%~4%とされ、近年マスコミで報道されることが多くなり、医療機関を受診し、診断・治療を受ける患者さんが増えています。
その症状は三つに分けられます。
一つのことに集中力が保てない、あるいは物忘れやうっかりミスが多いなどの不注意、一か所にいられず動き回るなどの多動性、そして人の話や、人が並んでいる列に割り込んだり、何らかの衝動を抑えられない衝動性です。
これまで、発達障害であるADHDは主に児童期に見られる障害と考えられ、成人期になると症状が概ね軽快するものとされていました。
しかし、近年、ADHDと診断された子供の50%~70%が成人期まで症状が続くという報告が見られるようになり、今では児童期特有の障害ではなく、成人期でも珍しくないと考えられています。
ADHDの症状の現れはその人の置かれた状況による
発達障害は、「障害」と称されてはいるものの、その本質は障害というより、その人の心理の特性といえます。
それは正常心理の発達の延長上にあるものです。
じっとしていることが苦手で、絶えず動き回ること、おしゃべりなことなどは、普通の児童でも珍しいことではないでしょう。
ADHDの症状は、置かれた状況に影響されます。
当院に通院されているADHDのお子さんでも、自宅で自分のペースで過ごせる時は大きな問題にならず、学校で集団行動を強制される時に、多動や衝動性によって、授業で長時間座っていられなかったり、些細なことから他の児童と喧嘩になる、といった振る舞いが問題となる方が多いようです。
児童期ADHDの患者さんでも、状況によっては、普通の子供のように見えることもあります。
成人ADHDが問題になる理由
成人期ADHDでは、児童期に見られた衝動性や多動は軽快し、不注意が主症状となります。
しかし、だからと言って、成人期ADHDの方の社会生活が楽になるわけではありません。
例をとれば、就学時に多少の遅刻や、提出物などの遅れは大目に見られても、就職し、高い規律や事務的な能力を求められると、それらの行動が見逃されない問題になることがあります。
また、その衝動性ゆえに、会話で一言多いことが、就学時には愛嬌として愛されるものであっても、職場では、周囲から嫌がられることがあります。
つまり、一般的に、成人期ADHDの症状は児童期のそれより軽いものであっても、成人となり、周囲の環境から要求されることのハードルが上がるために問題になることが多いのです。
成人ADHDの患者さんは、児童期のADHD以上に、普通に見え、置かれた環境によってその症状の目立ち方が異なります。
職場で問題になる症状を挙げると、その不注意からは、「優先順位をつけられず、仕事を先延ばしにする、安請け合いや空約束をする、遅刻をする」「整理整頓が苦手で、よく物をなくす」などが見られます。
一方で、その衝動性から、短気と誤解され、ぶしつけな発言で、同僚から孤立したり、上司と口論になることもあります。
さらに、多動性からは座っていてもじっとしていられず、貧乏ゆすりなどが見られることもあります。
なお、正確な診断のためには、児童期を振り返り、成人期に気付いた症状がその頃から見られていたかどうか、確認する必要があります。
成人ADHDの治療について
成人ADHDの治療についてですが、自分のADHDとしての特性に気付くことが第1です。
不注意や衝動性といった特性を把握した上で、様々な状況に対処することが役立つでしょう。
具体的には、予定を必ずメモし、それを繰り返し見直すことや、片付けの仕方を工夫したり、自分が集中しやすいように環境調整をすること、感情的になっている時に、すぐに行動せず、間を取ることなどが挙げられます。
発達障害が専門のカウンセラーに相談することも有益でしょう。
また、薬物療法によってADHDの症状を和らげられることがあり、専門外来の受診もお勧めです。
ADHDはあくまでも障害というより特性なのです。
一言多く、そそっかしくても、その愛嬌や親しみやすさで周囲から愛されることもあります。
また、頭の回転の速さとその思いつきから、素晴らしいユーモアのセンスを発揮する方もおられます。
さらに、エジソンやアインシュタインの例にあるように、その抜群の創造性と行動力で社会に広く貢献する可能性もあるのです。
特性の利点を生かせる環境や仕事を探すことも大切でしょう。
(鹿島 直之/精神科医)