最近注目を集めている任意後見は法定後見とどう違う?
最近注目を集めている任意後見契約ですが、その利用状況やメリットと問題点等について、以下に、簡単にまとめてみました。
所謂「成年後見制度」を構成する「法定後見」と並ぶ後見契約の一種です。
簡単に双方の相違点をまとめますと、「法定後見」は当人の判断能力に支障が出てきてから契約が締結されるものであり、「任意後見」は自らの意思で心身が正常なうちに契約を締結する点が大きな違いとなります。
後見制度により後見人が出来る業務について
後見制度によって後見人が出来る業務は以下の2つに大別されます。
ひとつは「財産管理」で、主な業務として文字通り本人名義の不動産の保守管理や、売却、預貯金等の金融資産の管理や金融機関との取引、保険の契約や保険金の受け取り、日常生活の必要な品の購入や生活費の送金、各種税金の申告や納付、その他の行政機関への申請、遺産分割や相続の承認、放棄、贈与に関する業務等となっています。
もうひとつは「身上監護」で、介護保険の申請、介護、福祉サービスの利用契約、医療機関・介護施設等への入院・入所の契約、自宅の購入、売却、増改築、修理といった内容になっています。
任意後見契約では上記の範囲で契約書に記載する内容を選択し、公証役場にて公正証書の形式で締結します。
また、契約締結が契約の発動ではなく、将来判断能力に支障が認められた時点で初めて契約が発動されるという内容になっています。
その間は任意後見契約を受任した人物は後見人ではなく、後見受任者と呼称されます。
また任意後見の場合、家裁に任意後見人の仕事ぶりを監督する「任意後見監督人」の選任を申立てます。
後見監督人の選任を以て初めて「任意後見契約」は発動されます。
これは法定後見の場合は家裁が直接後見人の仕事ぶりを監督しますが、任意後見の場合はこの監督人を選任することで間接的に家裁が後見人の仕事ぶりを監督することになります。
任意後見制度の利用状況
最高裁事務総局家庭局による直近の統計では平成26年(2014年)12月末時点で制度利用者数は2,119人でした。
この4年前の平成22年(2010年)の利用者数は1,475人でしたので制度利用者の数は年々増加傾向にあります。
任意後見制度のメリット
任意後見契約では、前述した業務範囲の中から自分で必要と思われる項目だけを契約に盛り込むことが出来ますし、更に具体的にどういった介護や治療を受けたいか、自宅の売却の際の要望等を契約書に盛り込むことも可能なので、当人の意向を最大限実現出来る内容に「カスタマイズ」することが可能となります。
この点が任意後見契約の大きな魅力=メリットと言えるでしょう。
また、法定後見の場合、後見人は家庭裁判所が選任しますが、任意後見の場合は自分の意思で後見人を指定することが出来ます。
法定後見の場合は、家族に意中の後見人(候補)がいたとしても、家裁が必ずしもその人物を選任するわけではありません。
また、本人の財産の使い方や介護の方法等について(既に本人に判断能力が喪われているため)法定後見人の権限で決められる場合があり、ここでも本人を含む家族の心情との乖離が生じることがあります。
自分で、将来を託す人物を指名出来て、どういう後見をして欲しいかを決められる。
この点が任意後見契約の最大のメリット(本人にとって)と言えます。
任意後見制度の問題点
まず、上記に挙げたメリットがそのまま問題点になる場合があります。
契約内容を自分で決められる、という事は、契約に書かれていない項目については、任意後見人は手を付けることが出来ません。
契約内容を決めるときには細心の注意が必要となります。
また、後見人を自分の意思で決めることが出来るという事は、仮に家族の中から選任したいと思った場合、その結果、家族間に亀裂を生じさせる危険性もあるという事です。
全て自由に出来るという事は、全て自己責任になるという一面をよく認識しておく必要があります。
信頼と期待を寄せた後見人が、見事に裏切るケースも少なくありません。
晴れて後見人に就任した途端に、自己解釈で勝手に本人の財産を私的流用するケースは少なくありません。
残念なことに親族後見人以外でも、専門家が後見人(士業従事者等)の場合でも発生しています。
もっと深刻なケースは、任意後見監督人の選任を申し立てないというケースです。
先述したように、親族や後見人受任者から後見監督人の選任申立がない限り、家裁は実情を把握出来ません。
申立がされない以上、本人は「正常なまま」ですから、どういうおカネの使い方がされていても本人の意思で、了解の上でという解釈となるからです。
後見契約が発動後であれば監督人のチェックが働きますから、ある程度、抑止力は期待出来ますが、この場合は第三者からのチェックが働きません。
この様に、任意後見契約の課題は「自由選択と自己責任」という点に尽きるのではないでしょうか?
(寺田 淳/行政書士)