最近よく目にする右派・左派という言葉の由来は?
メディアの中でしばしば目にし耳にする、「右派・左派」とか「右翼・左翼」という言葉。
最近では、新しく就任した日本の稲田朋美防衛大臣が、海外メディアから、「強硬右派」だとし警戒されているというニュースもありました。
右派・左派とか、右翼・左翼とは、そもそもどのような意味なのか、また日本では一般的な右派、左派という言葉で理解することが難しい「捻じれ現象」が生じていることを、皆さんはご存知でしょうか。
右翼・左翼の語源は、フランス革命に遡ります。当時フランスでは、新しく制定しようとする憲法の中で、「議会が制定した法律に対し国王の拒否権を与えるかどうか」が激しく議論されました。
このとき、国王に拒否権(強い権限)を与えるべきと考えた議員は、扇形の議席のうち議長から見て右側に陣取りました。
反対に、国王の拒否権を否定すべき(国王の権限を制限しよう)とする議員は、左側の議席に陣取りました。
右側に陣取った議員は、国王の権力を従来どおり維持しようという思想のため、こうした保守派のことを右派とか右翼と呼び、他方、左側に陣取った議員は、従来の国王の権力を制限しようという考えであったため、こうした急進派やリベラルのことを左派とか左翼と呼ぶようになりました。
右派・左派、右翼・左翼の本当の意味
しかし現実には、右派・左派、右翼・左翼という言葉はかなり多義的に使われているだけでなく、ときに発言者の都合で自由に用いられていたりするため、言葉の意味を正しく理解することは容易ではありません。
そんな中で、あえて右派、左派について一般的な説明を試みるとすれば、左派とは、人間の本来的な「自由」や「平等」の重要性を唱え、これを実現しようとする勢力、右派とは、伝統や現状の秩序を尊重しようとする勢力と言えるかと思います。
左派の立場からは、現状の制度が人間の自由や平等を実現していない場合には改革しようということになりますので改革派につながりやすくなります。
右派の立場からは、王制や身分制も含めて現状を維持しようとしますので保守派と呼ばれるようになるわけです。
日本では一般的な右派・左派の定義で分けられないことが多い
さて、日本ではどうでしょうか。
日本で王制、身分制といえば天皇制です。
かつて、日本は天皇を中心とする神の国だ、と発言した政治家がいましたが、こうした天皇制に大きな価値を認めこれを維持しようとするのは右派、保守派になります。
しかし、他方で、日本の左派、左翼と呼ばれる人が、昨今声高に、「天皇制廃止!」を訴えているかといえばそんなことはありません。
また、現行の憲法を守ろうとするのが右派・右翼で、憲法改正を訴えるのが左派・左翼かといえばそんなこともないですね。
ご存知のとおり、保守派の政治家と一般にみられる安倍総理は憲法改正派ですし、むしろ左派・左翼の勢力は、日本の平和憲法の重要性を唱え、護憲を訴えています。
このあたりについて解説すると本が一冊書けてしまうのでこれ以上の解説は控えますが、日本では、伝統的・一般的な右派・左派の説明からのねじれがいくつも生じているのです。
しかも、右派の中にも徹底した右寄り(極右)の人もいれば、冗談のような言葉ですが、左寄りの右派の人もいます。
また、左派でもこうした事情は同様ですし、ましてや自民党=右派・保守派、野党=左派・リベラルと単純に分けられるわけでもありません。
結局のところ、右派とか左派というのは、短い単語で、特定のイメージを想起させやすい便利な言葉として、重宝されている場面が多いと言えます。
しかし、こうした言葉は、特に特定の思想と結びついた言葉だけに、人や団体を、右とか左、右翼とか左翼と安易に分類することは、昔から差別やレッテル貼りにつながってきました。
そのため、安易に右派、左派という言葉だけで理解しようとせず、その人やその団体の「具体的な主張内容」にしっかりと注目していくことが大事になってきます。
(永野 海/弁護士)