大卒なのに高卒と詐称して採用された市職員が懲戒免職処分に
高校卒業者を受験対象とする神戸市の「技能労務職」に、大卒の学歴を伏せて高卒だけを書いた履歴書を提出して採用されていた男性職員が、このほど神戸市から「懲戒免職処分」を受けました。
この場合と逆に、高卒であるのに大卒と偽ったパターンが「経歴詐称」にあたることは理解しやすいのですが、大卒であるのに高卒と称することが同じく「詐称」にあたるというのはわかりにくいと思います。
高校を卒業しているのは事実であって、その点では何も「嘘」はありません。
問題は、大学卒業の経歴をあえて「伏せる」ことをどのように考えるか、という点にあります。
大卒をあえて伏せて高卒としての応募は不作為による詐術に問われる
一般に企業などが労働者を採用するにあたって履歴書を提出させたり、採用面接で経歴の説明を求めたりするのは、労働者の有する資質や能力・性格等を適正に評価したうえ、その企業などの採用基準に合致するかどうかを判定する必要があるからです。
それは、さらに採用後の労働条件・人事配置等を決める際の資料にもなるわけですから、企業などにとって労働者採用の場面ではたいへん重要な意味を持ちます。
そして、企業などが労働者を採用するにあたり、どのような採用基準を設定し、学歴等の資格をどのように絞るかは、法律等の特別の制限に触れない限り、企業側の判断と責任において自由に決定できる問題です。
ですから、高卒を採用条件としている場面では、大卒の就職希望者が応募することは予定されていないと言うべきでしょう。
仮に、堂々と大卒の経歴を履歴書に書いて応募した場合、ほぼ間違いなく書類選考の段階で落とされます。
そもそもの採用条件に最初から合致していないからです。
そうだとすると、やはり大卒の学歴を伏せて高卒と書いた履歴書を提出することは、企業などを騙して就職することにあたります。
大卒だとわかっておれば採用されないのに、大卒であることを告げないこと(不作為による詐術)により、企業側が騙されて採用に至る結果になるからです。
懲戒免職の処分は決して重くない
それでは、今回の神戸市のような「懲戒免職」という厳しい処分は妥当なものと言えるでしょうか。
この点について多くの判例は、労働者が「経歴詐称」によって本来従業員たり得ないのに従業員たる地位を得した場合について、そのような「詐称」は重大な信義則遼反であり、かつ契約成立の根幹を揺るがす点で「企業秩序」に重大な影響を与えたものとして懲戒解雇事由にあたる、としています。
神戸市などの場合は、「地方公務員」を採用する立場から、採用試験についての厳格性や公平性について、私的な企業者と比較してさらに高いハードルが課せられます。
そして、一般に地方公務員試験では、上級(大学卒業程度)・中級(短大卒業程度)・初級(高校卒業程度)に区分されているケースが多いところです。
このような初級試験の受験者に上級試験対象者がこっそりと紛れ込んで、ちゃっかり試験に合格してしまうことは明らかに不公平であって許されません。
このような試験区分を設けることの意義が失われるばかりか、公務員試験の適正な実施そのものを根幹から揺るがしかねないからです。
ありていに言えば「不正受験」であり、不正に得られた身分をそのまま維持させるなら、今後も「不正受験」はなくなりません。
その意味でも、今回の神戸市の「懲戒解雇処分」は妥当だと言えるでしょう。
(藤本 尚道/弁護士)