8Kテレビを日本企業連合が共同開発へ
2016年8月26日(金)の日経新聞朝刊のトップ記事は、「8Kテレビ 共同開発」で、パナソニックやソニー、NHKが共同でフルハイビジョンの16倍の解像度を持つ次世代放送規格の8Kに対応したテレビ技術を2020年を目途に開発すると伝えています。
この記事を見て、みなさんはどのような感想をもたれたでしょうか?
・日本の電機メーカーは中国・韓国勢に先行するために、日本連合で生き残りを目指している。
・東京オリンピックの年に、また大型テレビを買い替え需要を見込んでいる。
・最近出た4Kテレビでも解像度は十分なのに、このうえまだ8Kテレビを開発する意味はあるのか?
多くの方が上記のような感想を持たれたかと思いますが、筆者は全く異なる点が気になりました。
それは記事になぜか「シャープ(株)」の名前の出てきていないということです。
見出しはもちろん、本文中にも、データ処理用半導体の開発を担当する富士通、ソシオネクストの名前は出ているにもかかわらず、シャープの名前は見当たりません。
8Kテレビ共同開発企業にシャープの名前がなかったわけとは
シャープは壁に掛けられる大型液晶テレビを世界に先駆け開発し、「世界の亀山工場モデルAQUOS」で一世を風靡しました。
しかし中国・韓国勢との価格競争に敗れて巨額の赤字を計上し続けた結果、数千人規模の早期退職を繰り返し、最終的にホンハイ精密工業の出資を受けて経営再建を目指していることは、みなさんもご存じのことと思います。
実は筆者は2012年12月の1回目の早期退職により28年間勤めたシャープを去りましたが、在職中は液晶および太陽電池の製造装置の生産技術開発に従事しており、亀山工場の液晶パネル用クリーンルームで仕事をしたこともあります。
このような経歴に基づいて、今回の記事の背景を技術的な観点から解説したいと思います。
一般に、液晶パネルの製造と、そのパネルを用いた液晶テレビの製造は、異なる事業本部が担当しており、シャープはその両方の事業本部を有する国内唯一のメーカーです(2016年8月現在)。
液晶テレビのシェアが低下しているとは言え、いまだに技術的に重要なポジションにあるシャープが、なぜ今回の共同開発のメンバーに入っていないのでしょうか。
その理由は、シャープがホンハイ工業の傘下に入った事により、もはや「日本メーカーの仲間」と見なされていないからだと推察します。記事にもあるように、今回のプロジェクトは日本連合が共同で技術開発して、中国・韓国勢に対抗しようと言う趣旨なので、台湾メーカーであるホンハイ精密工業に、8Kテレビの重要な情報や技術が流れることは避けなければなりません。
このような背景があり、シャープはメンバーに加われなかったのではないかと考えられます。
今後のシャープの進むべき道は?
もちろん8Kテレビを開発したからと言って、一般ユーザには違いのわかりにくいスペック競争が売り上げの向上にどれだけ貢献するかは不明ですし、結果的には本プロジェクトに参画しても、さほどメリットがなかったと言う事態もあり得ます。
しかしながら今後、他のプロジェクトでも日本連合に加われないことによりシャープが被る情報及び人的交流のロスは、将来的にボディーブローのようにじわじわと効いてくる可能性が高いです。
現在のように技術が細分化され、多岐に渡っている状況では、一社単独での技術開発は困難と言わざるをえません。
それではシャープは今後、どのようにして技術開発を進めていけばよいのでしょうか。
最近の技術開発はオープンソース(外部リソース)の活用が盛んですし、国内連合が難しい上、海外の有力メーカーと積極的に提携していく必要があると考えます。
他社と提携するには、双方にメリットが必要です。今のシャープにまだ技術的優位性がありますが、せっかくの保有技術が陳腐化する前に、素早く決断し行動することが必要と思われます。
(安武 健司/機械系技術系コンサルタント(CAE、実験) 、知財活用コンサルタント(特許、商標等))