癌の5年生存率とはどういう意味か
5年生存率とは、「癌と診断されてから5年後に生存している人の割合」のことをいいます。
ただ、今回の5年生存率は、正確には「5年相対生存率」です。
つまり、人は、心筋梗塞や脳卒中や交通事故など、癌以外で亡くなることを考慮し、純粋に、癌でどれだけ生命を脅かすのか統計学的に処理した値です。
5年相対生存率が上昇することは、誰もが望むことです。
この割合に影響を与える要因は、診断されたときの癌の進行度(臨床進行度・ステージ)と治療の効果です。
言い換えれば、各種検査の診断能力向上による早期診断と治療の進歩が、5年相対生存率の向上につながります。
全部位5年相対生存率62.1%に上昇と国立がんセンター発表
国立研究開発法人国立がんセンターがん対策情報センターより、「地域がん登録」データを活用し癌の5年相対生存率が発表されました。今回2006-2008年診断症例を対象とした3度目の集計です。
全国の644,407症例について、全部位と部位別、臨床進行度別、年齢階級別5年生存率の集計が行われました。
1) 全部位5年相対生存率
全体62.1%(男性59.1%、女性66.0%)で、前回集計の全体58.6%からわずかに向上しました。
2) 部位別5年相対生存率
男性では5年相対生存率が比較的高い群(70-100%)には、前立腺、皮膚、甲状腺、膀胱、喉頭、結腸、腎・尿路(膀胱除く)、低い群(0-39%)には、白血病、多発性骨髄腫、食道、肝および肝内胆管、脳・中枢神経系、肺、胆嚢・胆管、膵臓が含まれました。
女性では高い群(70-100%)は、甲状腺、皮膚、乳房、子宮体部、喉頭、子宮頸部、直腸、低い群(0-39%)は、脳・中枢神経系、多発性骨髄腫、肝および肝内胆管、胆嚢・胆管、膵臓でした。
3) 臨床進行度別生存率
どの部位でも、一様に臨床進行度が高くなるにつれ、生存率が低下していて、また、多くの部位では早期で診断された場合には生存率が良好であることが分りました。
4) 年齢階級別生存率
概ね、加齢とともに生存率が低くなる傾向が見られましたが、若年者より高齢者の生存率が高い部位や、年齢と生存率との関連がはっきりと説明できない結果もありました。
5年生存率上昇をどのように解釈したら良いのか
第1に、全部位5年相対生存率は、疫学的には意味のある数字かもしれませんが、私たちにとってはあまり意味を持たないと思います。
例えば、リンゴの糖度とみかんの糖度とメロンの糖度を合わせて糖度が向上していますという情報は、微妙ですよね。
リンゴが好きな人は、むしろ、リンゴの糖度がどうなっているかを知りたいと思います。
それを知るには、部位別5年相対生存率をみる必要があります。
結果は前述したとおりですが、臨床進行度別生存率と年齢階級別生存率の結果を踏まえると、各種癌において早期発見がとても重要なことであると考えられます。
第2に、近年の癌治療の進歩はめざましいと考えられます。
手術治療の種類、抗がん剤治療の薬物の種類、分子標的薬(がん細胞の持つ特異的な性質を分子レベルでとらえ、それを標的として効率よく作用するようにつくられた薬)なども登場し活躍しています。
保険診療外ではありますが、免疫細胞治療(体内でがん細胞やウイルスなどの外敵と闘う免疫細胞を患者さんの血液から取り出し、人工的に数を増やし、効率的に癌を攻撃するよう教育してから再び体内へ戻すことで、癌を攻撃する治療法)などもあります。
しかしながら、いずれも、臨床進行度がすすむほど、効果は少なくなる傾向にあります。
日本はがん検診受診率が先進国で最低レベル 意識改革が必要
結果、部位別5年相対生存率の上昇には、早期発見が診断の面からも、治療の面からも大切なことであると言えます。
早期発見をするためには、検診が重要です。
国民生活基礎調査によると、日本の検診受診率は,50%に達しません。
欧米ですと70%−80%です。当然、日本と比較して、欧米の5年相対生存率も高く、日本は、OECD(経済協力開発機構)加盟国34カ国中最低レベルです。
我が国でも2007年以降「がん対策推進基本計画」が策定され基本計画に基づき、がん対策が進められてきましたが、十分な効果は得られていないのが現状です。
国民全体の検診に対する意識改善がもっとも重要なのです。
(及川 寛太/内科医)