子どもたちの深刻な運動能力低下
秋の運動会が終わり、世のお父さまたちは体力の低下を痛感しているかもしれません。
しかし、文部科学省が行っている「体力・運動能力調査」によると、現在の子どもの運動能力はその親の世代である30年前と比較すると低下しているため、お父さまたちよりも現在の子どもたちが大人になったときの方が実は深刻なのです。
体格は昔と比べて大きくなっている
実際にどの程度運動能力が低下しているのか、親の世代を昭和60年度の11歳、子の世代を平成27年度の11歳として比較してみましょう。
握力(kg) 50m走(秒) ソフトボール投げ(m)
親世代 男子21.08 女子20.49 男子8.75 女子9.00 男子33.98 女子20.52
子世代 男子20.26 女子19.73 男子8.78 女子9.12 男子27.41 女子16.50
【体力・運動能力調査】総務省統計局のデータより抜粋
握力・50m走・ソフトボール投げの全てにおいて低下していますが、問題は以下のデータが示すように、体格は大きくなっているのに運動能力が低下している点です。
身長(cm) 体重(kg)
親世代 男子143.2 女子145.5 男子36.5 女子37.8
子世代 男子145.2 女子146.7 男子38.2 女子38.8
【学校保健統計調査】総務省統計局のデータより抜粋
体格が大きくなっていけば運動能力は向上するはずですが実際には低下しています。
この2つのデータを見ると、もしも同じ体格で比較した場合には更に大幅な運動能力低下があるのではないかと想像できます。
ソフトボール投げは大幅な低下
体力・運動能力調査においてソフトボール投げの低下が他の握力や50m走に比べて大きいのが一目瞭然です。
これは握力や50m走というのは日常生活においてもある程度必要な能力であることに比べ、投げる動作は日常生活において特に必要な能力ではないからだと思われます。
野球などのように実際に投げる動作のあるスポーツはもちろん、テニスやバレーボールなどオーバーヘッドスポーツをしていれば肩は鍛えられます。しかし専門的にスポーツを習っていない子どもたちはほぼ使われない能力になります。
プロ野球の大谷翔平選手や高校球児を見てもわかるように、専門的にスポーツを学んでいる子どもたちの投げる能力は確実に上がっていることを考えると、スポーツを学んでいる子どもたちの能力は向上していて、学んでいない子どもたちの能力が極端に低下しているという深刻な現状が見えてきます。
体力低下の一番の原因と考えられる外遊びの減少
親世代の子どもたちがみんなスポーツを学んでいたわけではないので、外遊びの減少が一番の原因として考えられます。
ゲーム機の普及により室内遊びが増加、公園では球技が禁止、みんな塾通いで遊ぶ相手もいない、このような現状では外遊びをしたくてもできません。
外遊びができるような環境整備も必要ですが、学力重視に偏っている親の意識改革も必要ではないでしょうか。
運動能力というとスポーツ選手にしか関係ないように思いがちですが、肥満や生活習慣病、体を動かすことが習慣化されていないことにより心身の健康面に影響し医療費の増加につながることも懸念されます。
子どもたちの将来を考えたときに何が本当に必要なのか私たち大人が考えていかなければいけないですね。
(川口 博正/スポーツトレーナー)