7月参院選は違憲状態であったのか?
7月に行われた参議院選挙について,「一票の格差」があり選挙権の平等に反するもので違憲であるとして,全国の高等裁判所及び同支部に選挙の無効を訴えている訴訟について,本稿執筆時である10月19日現在,2つの裁判所で「違憲状態」,3つの裁判所で「合憲」との判決がなされています。
一票の格差問題とは,本来有権者の投票価値は平等が原則であるにもかかわらず,選挙区割り等の要素により,議員一人あたりの有権者数に違いが生じ,その結果,議員一人を当選させるために必要な票数,すなわち一票の価値に違いが出ている,というものです。
7月参院選では,「鳥取・島根」「徳島・高知」を合区して実施した結果,議員1人当たりの有権者数の格差は3・08倍でしたが,これは例えば有権者数が最小の選挙区で10万票が過半数となるとしたら,有権者数が最多の選挙区では30万8000票を集めないと過半数に届かない,ということになります。
この問題については選挙のたびに訴訟において問題にされており,平成25年の参院選については,4.77倍という格差を最高裁判所が「違憲状態であった」と判断しています。
今回の選挙では政府が合区を含む是正措置をとったことと,それでも約3倍の格差が残ったことを裁判所がどう判断するかが問われていました。
これについては,判決において是正措置をふまえてもなお憲法違反と評価できるほどの格差があるとして違憲状態であるとする判決と,合区などの定数是正措置により格差は縮小し,都道府県を選挙区の単位として定めることは合理性があるという前提のもと,看過し得ない程度の格差が生じているとは言えないとして合憲とする判決が出されており,まだ判決が出ていない高裁,及び最終的に最高裁判所がどのような判断をするか,なお注目すべき問題です。
裁判を通じて一票の格差問題を是正することは可能か?
では,「違憲状態」というのはどのような意味でしょうか。
これは,結論としては憲法違反であるが,憲法違反を理由に選挙を無効とすると再選挙や国政の空白など重大な事態が生じてしまうことを考慮し,憲法違反状態であることは認めるが,選挙は有効とする,というものです。
伝統的な議論においても,裁判所は国政に重大な影響を及ぼす事項については判断を回避すべきというものがあり,その考え方に基づく判断といえます。
このような裁判所の態度それ自体はおかしなものではありませんが,憲法違反の有無は選挙の効力に影響しないという点で,政治が憲法違反状態を積極的に解消するための動機付けとはならず,憲法違反という判断の重みを失わせるという批判もあります。
これまで裁判所が何度も違憲状態を指摘しても,一票の格差が抜本的に改善しなかったため,裁判所は憲法違反であるなら選挙の無効を宣言すべきだという意見も強く出されており,これ以上違憲状態が放置されるなら選挙を無効とする可能性があることを示唆する判決も出るようになりました。
そのような状況の中で,今回選挙区を都道府県単位とするという原則を緩め,「合区」をしたということは,政治が少しは裁判所の批判に応えようとしたものであると言えます。
しかし,それでも約3倍の格差が残ったことや,選挙制度の抜本的改革がなされていないことを裁判所はどう判断するか,そして国民がどのように考えるのか,が問われているといえるでしょう。
(半田 望/弁護士)