女性と異なる特徴がある男性のうつ病
うつ病は気分の落ち込みが著明となることで、心身の状態や日常生活に影響をもたらし、時には自殺に至ることもある精神疾患です。
その頻度は女性が男性の2倍程度とされています。
しかし、日本の年間の男性の自殺者数は女性の2倍以上なのです。
男性のうつ病は女性とは異なる特徴があるため、男性のうつ病を軽視すべきではありません。
その特徴と対処法についてお伝えします。
男性はうつ状態が見られても人に頼りたがらない傾向にある
男性はうつ状態が見られても、それを否認し、家族にすらその苦痛を訴えようとしない傾向があります。
これには、精神的な不調について、男性の場合には他人に頼らず、自分で解決すべきという価値観が影響しているようです。
男性より女性にうつ病が多い要因の一つ
私のクリニックでの診療経験からは、うつ病に限らず、何らかの精神的な不調を訴え、精神科を受診する頻度は、男性より女性の方が多いようです。
診察にかかる時間も男性より女性の方が比較的長い傾向があります。
女性の方がご自分の内面や感情について話すことに積極的で、ご抵抗が余りないようです。
男性より女性にうつ病が多い要因の一つとして、治療を受けるべき状態にある多くの男性が、ご自分の精神的苦痛を訴えることに消極的であり、医療機関に受診していないことが考えられるでしょう。
アルコール依存症との関係
男性のうつ病は、女性よりもアルコール依存症を伴うことが多いものです。
男性は周囲への精神的な訴えを控え、自分で解決しようとする傾向があります。
うつ症状に苦しむ男性が、一時的な気分高揚作用、不安緩和作用、そして催眠作用を有し、身近で手に入りやすいアルコールに頼ることは致し方ない対処とも言えます。
当院でも、受診に消極的で、周囲から促されて受診した男性が、重度のうつ状態であるばかりか、アルコール依存を合併していたことが少なくありません。
飲酒によって一時的に苦痛が緩和されても、続けるうちに飲酒量は増え、かえってうつ状態を強めてしまうことがあります。
精神科でうつ病の治療に用いられる睡眠薬や抗うつ薬と比べ、アルコールは毒性や依存性が遥かに強い物質なのです。
特にうつに伴う不眠にアルコールがよく用いられることがありますが、寝つけても、眠り全体の質はかえって悪化します。
さらに、司法解剖を受けた自殺例のアルコール検出率は32.8%という報告がありますが、飲酒時には危険な行動に対しても自分の抑制が効かなくなります。
自分のうつ症状に対してアルコールで対応しようとすることは、自殺的行為そのものと言っても過言ではありません。
失業している場合
男性は、女性よりも仕事に価値をおいているため、失業が強い精神的重圧となります。
失業のために、自分には価値がないように思われ、抑うつ感を強めることが多いものです。
男性は、うつ状態にあっても、人目をはばかり、自分から助けを求められず、自宅に引きこもってしまうことがあります。
就業している場合
男性の場合、40代から50代が、うつ病と自殺が最も多く見られる時期です。
そして、就業している男性のうつ病に限ってみれば、起業家、または会社での管理職など、社会の重責を担っている方に多く認められます。
そのような立場にある方は、責任や周囲からの精神的な重圧を感じやすく、部下の話も聞かなければならない中で、自分の精神的な不調への対応が後回しになりがちです。
また、その社会的立場が、周囲から当人に精神的な変化を指摘させることを難しくさせています。
結果として、疲労が蓄積され、うつ症状が重症化することがあります。
そして、ほとんど動けないばかりになって、見かねた家族にクリニックに連れてこられる、といったことが珍しくありません。
うつ病の予防のために
男性はその内面や感情を人に話すことを女性より遠慮しがちです。
しかし、普段とは異なる気分の落ち込みが続く場合には、信頼のできる家族や友人、医療機関に早めに相談することが重要です。
また、アルコールによる対処はかえって危険です。
男性であっても、自分の感情を大切にする必要があるのです。
周囲としては、男性の落ち込みが長期にわたって続いたり、急に飲酒量が増えたりした場合には、注意が必要です。
当人のプライドを尊重しながらも、十分にコミュニケーションを取り、その気持ちを聞いてあげるように心がけるべきでしょう。
うつ状態が顕著な場合には、医療機関の受診を強くお勧めすることも大切です。
(鹿島 直之/精神科医)