現金やカードがなくても買い物できる時代へ
米Amazonが発表したコンセプトストア「Amazon Go」が注目されています。
「Amazon Go」では人工知能、コンピュータービジョン、様々なセンサーなどの技術を活用してレジを排除し、会計を自動化することが大きな特徴です。
入店時にスマートフォンアプリで発行されるバーコードをスキャンし、カメラなどで入店者を特定して店舗内での行動を常にトラッキングできる仕組みとなっています。
日本でもこうした「現金やカードなしで決済する」実験が進められています。
三井住友フィナンシャルグループでは社員食堂で顔認証による自動決済の実証実験を行っています。
社員食堂に設置されたカメラで顔認証を行って社員を特定し、給与天引きで精算する仕組みです。
また、福岡市では外国人観光客を対象に、指紋認証を用いた自動決済サービスを開始しました。
空港や宿泊施設等で指紋やパスポート情報、クレジットカード情報等を登録すれば、指紋スキャナーを設置した店舗で買い物をし、ホテルにチェックインすることができます。
外国人観光客はパスポートや財布を持ち歩く必要はなく、店舗等にとっても外国人対応による混雑の解消につながると期待されています。
キーテクノロジーは生体情報認証
こうした自動決済の仕組みを支えているのが、指紋や顔等で本人確認する生体情報認証です。
生体情報認証は他人と異なる身体や動作の特徴を利用して本人であることを証明します。
識別対象となる生体情報は「指紋」「顔」「静脈」「虹彩」「声紋」「行動」などです。
従来は指紋認証が主流で現在も広く使われていますが、最近の画像処理技術の進化から顔認証も拡大しつつあります。
生体情報認証は本人の身体的な情報に基づくので利便性が高く、利用者のセキュリティ意識に関わらず一定のセキュリティレベルを確保できます。
ICカード等の物理的なID情報を携帯する必要がなく、パスワードの様に他者に解読されたり、忘却によって喪失したりすることはありません。
以前は認証の正確性という面で課題がありましたが、近年は精度が上がり、認証エラーが発生する可能性が低くなっています。
実現に向けた課題
このような自動決済サービスの実現で利用者の利便性や安全性が向上しますが、課題もあります。
まず、店舗自体の設備投資の問題です。「Amazon Go」のように高度にスマート化された店舗の場合、カメラや様々なセンサーを設置して収集した情報をリアルタイムで解析する仕組みを構築するため、設備投資は膨大になるでしょう。
自動決済に対応するだけでも指紋スキャナーや顔認証用カメラの設置が必要です。
コンビニやスーパーはともかく、現金商売で行ってきた個人店舗等の場合は物理的なコストだけでなく、自動決済化による商習慣の変更等、ソフト面でのコストも追加されるでしょう。
生体情報認証固有の課題もあります。
生体情報認証はパスワードのような完全一致による認証ではないため、何らかの理由で本人と認識されない可能性がゼロではありません。生体情報が漏えいした場合、再登録回数が限定されることも問題です。
指紋認証であれば左右の指の合計10回の登録ができますが、顔認証は替えが利きません。
そのため、生体情報が漏えいした利用者は従来型の決済手段で対応せざるを得ないと考えられます。
生体情報の管理者は個人情報保護法やプライバシーの対応も求められるため、その管理コストも大きくなります。
様々な課題はありますが、テクノロジーの活用によって利便性と安全性が向上する生活環境の実現に期待したいです。
また、増大する外国人観光客にとっても「言語の壁」を超えるための有効な手段となるでしょう。
(金子 清隆/ITコンサルタント セキュリティコンサルタント)