日本の若年層の死因の第1位は自殺
平成10年から14年間も3万人を超えていた日本の自殺者数ですが、平成22年からは減少傾向にあり、平成27年の自殺者数は24015人でした。
しかし、平成27年の厚生省の統計によれば、日本の15歳から34歳の若年層の死因の第1位は自殺です。若年層の死因の第1位が自殺となっているのは、先進国では日本と韓国だけなのです。
若年層における平成24年の日本の死亡率(人口10万人当たりの死亡者)は18.1でした。しかし、同時期における若年層のフランスの死亡率は9.3.ドイツは7.6、カナダは12.0、アメリカは12.8.イギリスは6.6、イタリアは4.8なのです。
なお、韓国では若年層の死因の第1位は日本と同様に自殺であり、死亡率は18.3と日本を上回っていました。
自殺率が高い日本と韓国の若年層
厚生省の統計によれば、平成27年の若年層の自殺の原因は、19歳以下では学業不振や進路に関する悩みを主とする「学校問題」が最大で、19歳以下の自殺者は554人となっています。
20歳から29歳では「学校問題」に加え、職場の人間関係や仕事疲れなどによる「勤務問題」、就職失敗や生活苦などによる「経済・生活問題」、さらにその大半がうつ病による「健康問題」が主要な原因となっています。
若年層の自殺者の大半が無職者で、うつ病は「勤務問題」「経済・生活問題」に伴うことが多いことが指摘されています。
一方、若年層の自殺率で日本を上回る韓国は、高卒者の大学進学率が70%を超える学歴偏重社会による弊害が長年指摘されてきています。
韓国は2014年に世界30か国で実施された18歳以下の子供の幸福度調査で最下位となっており、近年では、高校生までの学生の自殺者が毎年100人を超えています。
また、韓国の若年層(15歳から29歳)の去年の失業率は9.8%と、同年代の失業率が5%台である日本を遥かに上回っています。
若年層の自殺率に影響を及ぼすと考えられる日本と韓国に共通する点
驚異的な経済成長を成し遂げたこのアジアの2国の共通点は、国民の文化的同一性と競争心が強いことです。
両国民とも国民全体の一体感や同調圧力が強く、厳しい受験に象徴される競争を重視しています。
受験や就職における激しい競争とそれに伴う心理的な負担が両国の若年層の高い自殺率に影響している可能性があるでしょう。
若年層の心性の特徴として、刺激に過敏で、主観的、感情的、不安になりやすい傾向にあり、冷静かつ客観的な考えを持つことが難しいものです。
精神的プレッシャーに伴う強い不安から悲観的になり、自殺企図のような衝動行為に至るということも稀ではありません。
そのため、若年層の人たちにとっては、時に理解ある人に自分の話を十分に聞いてもらい、精神的重圧を和らげ、自分の考えを整理する機会が必要なのです。
生きていること自体に価値がある
私が診療の中で感じることですが、就職や受験に失敗したり、社会的引きこもりであったり、あるいはうつ病の若年層の方を追いつめるのは、「自分は社会から必要とされていない」という考え方です。
そのような若年層の方たちは、自分の状態を恥とし、自分を責め、自殺まで考えることがあります。
誰かが亡くなったことを思い出してみればわかることですが、どのような状態にあろうと、誰であろうと、死を選ぶより、生きていること自体に価値があると考えてもらいたいものです。
周囲は本人の苦痛やそのあり方を否定せず、本人が何でも話せる関係を出来る限り維持することが重要です。
悩む人々は助けを求めている
自殺対策に取り組むNPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」の調査によれば、自殺で亡くなった方の70%が亡くなる前に行政や医療などの専門機関に相談しているのです。
周囲は本人が思い詰めていたり、自殺の危険があるように感じたら、自殺を考えているかどうか、本人に確認してみてもいいでしょう。
自殺したいと訴えられたなら、その理由を十分に聞き、その上で自殺したくなるほどの苦痛を和らげるために、出来ることは何かを話し合ってください。
自殺しようと思い詰めている場合には、気持ちが極端に落ち込んでいることだけが問題ではない場合が多いものです。
その人が抱える社会的、または経済的な問題についても、希望と見通しを持たせられるように、いろいろな側面から専門家が相談、援助することが役に立ちます。
自殺未遂者のほとんどは成功しなかったことに感謝するという調査があります。
周囲が粘り強くあきらめずに、本人の気持ちと生きるための努力を尊重しながら接することが何よりも重要です。
(鹿島 直之/精神科医)