高齢者がペットと暮らすということ
ペットとの暮らしは、心も体も元気にしてくれるとよく言われます。
このことは、1960年代より全世界的に研究され、アニマルセラピーとして体系化されて今日に至っています。
これら研究の結果、動物と暮らすことで、体への効果、心への効果、社会的効果の3つの効果が期待できると結論付けられています。
もちろん高齢者にとっても同様の健康効果が期待できます。
ペットとのふれあいでストレスが解消され、それが高血圧予防につながります。
実際に高齢者施設では医療費の削減につながったという調査結果も出ています。
一方で、高齢者がペットを飼うことに対する問題点もあります。
その主たるものは、年齢に関することです。
環境省は、ペットを飼う前に自身の年齢と動物の寿命を考えるよう呼びかけています。
例えば、犬の平均寿命は約15年。
70歳で子犬を飼い始めた場合、犬が寿命を迎えるころには85歳となります。
同省の動物愛護管理室は「寿命の計算は高齢者には少し酷かもしれないが、最後まで責任を持って飼う覚悟が必要。高齢者の場合、子犬からでなく年齢が高い保護犬を飼うという選択肢もある」としています。
本稿では、高齢者がペットと幸せに暮らすために知っておいていただきたいことについて解説していきます。
ペットとの暮らしがもたらす効果
前述に示しましたように、ペットとの暮らしにより3つの効果が期待できます。
その効果について簡単に解説します。
①体への効果:血圧や心拍数が下がり、自律神経の副交感神経が優位になることでリラックス、和み、笑顔、癒しなど人の精神面、身体面に良い効果をもたらします。
科学的には、ストレスの指標としての血液中のコルチゾールというホルモンの値が
動物にふれ合う前より後のほうが優位に下がることからストレス緩和の効果も言われています。
②心への効果:元気づけ、リラックス効果、自尊心・責任感等の肯定的感情などの効果があります。
③社会的な効果:人と人の間に動物が介在することにより、人の朗らかな側面を引き出し、人にやる気を与え、さらには人の素直な面を引き出し、結果、人間同士の交流を深める効果があると言われています。
ペットの飼育状況から考える
一般社団法人ペットフード協会による28年犬猫の年代別現在飼育状況によると、
年代別での飼育状況から、50才代での犬及び猫の飼育率が最も高く、次いで60才代となっています。
また、60歳以上を対象としたアンケートの中で、「日常生活全般について満足していますか?」との問いに対し、満足していると答えた割合が、内閣府の調査では12%であったのに対し、ペットを飼っている60歳以上の方を対象としたものでは、3倍近い35.4%と圧倒的に満足感が得られていることがわかりました。
このような背景からも、高齢者がペットを飼うことの有用性は疑う余地もありません。
さらには、そこに生じる問題点をいかに解消していくかということで、ペットとの暮らしがより幸せを招きかつ、健康寿命延長や、認知症対策にもつながる可能性が見えてきます。
高齢者が安心してペットと暮らすため
高齢者がペットを飼育するうえで最も重要な事は、そのバックアップ体制です。
ペットの病気、飼い主の病気や怪我など不測の事態に対し、フォローできるよう態勢を整えておく必要があります。
そのためには、家族が身近に生活していることが理想ですが、実際は老夫婦、またはひとり暮らしの高齢者が増えているのも事実です。
そのため、シニア世代を含む高齢者が安心してペットを飼う仕組み作りが必要となります。
現在、全国的にはいろいろな団体が、高齢者がペットを飼うことへの「もしも」に対する活動をしていて、そのいくつかをご紹介します。
「高齢者のペット飼育支援獣医師ネットワークVBESENA」
東京都足立区の獣医師らによるNPO法人で、現在、東京、神奈川等の関東を中心に、活動しています。
高齢者の飼育する、犬の散歩、日常の世話、健康チェック等を行っています。
「愛犬のお散歩屋さん」
東京都武蔵野市に本部を置く、「愛犬のお散歩屋さん」は、全国約70のフランチャイズチェーンを展開する、有料の会員制サービスです。
高齢者の飼育する犬の散歩や、猫の餌やり、糞の始末などのサービスを行っています。
その他、全国的にペットと暮らせる特別養護老人ホームや介護施設、ペットの老齢介護施設などが増えてきました。
そのような施設を事前に調べておくことで、「もしも」の時に対処ができます。
家族同然、最も身近にいてくれて心身を癒してくれる大切なペット。
そのペットとの暮らしがお互いにとって幸せであるためには、お互いの健康、笑顔、そして「もしも」に対する備えが大切です。
より幸せな時間が続くように私たち獣医師もお手伝いしていきたいと思っています。
(田村 兼人/獣医師)