7割のアリはさぼっている?
働き者の代名詞「アリ」。
「彼はアリのように働いた。」というと悲壮感まで漂ってきます。
しかし、近年の研究で、アリは考えられているほど働き者ではないことがわかってきました。
大体、私たちが見ているアリは、餌を求めて地上を歩き回っている奴らばかりですが、圧倒的多数は僕らの見えない地下の巣内に潜んでいます。
そこで彼らは何をやっているのか・・・・研究者たちの地を這うような(いや、たとえではなく)観察の結果、地中では、最大、7割ものアリが何もせずに休んでいた事がわかったのです。
研究者にこの怠惰な姿を見られたアリたちは、バツの悪そうな顔をして仕事に戻った・・・・というのは冗談ですが、「弱肉強食」「弱いものは滅びる=鉄の掟自然淘汰」の自然界で、なんでこんなことが許されているのでしょうか。
継続的な観察でも、2割のアリたちは、ほとんど何も仕事をしない状態ですごしていたそうです。
働かないアリの存在意義
通常、自然界の生物は「無駄」なことはしません。
厳しい自然環境において、エネルギーロスが死活問題になるからです。
ですから、生物の行動には、きっと何か生存のための「意味」があるはずです。
アリも生物ですから、働き続けると「疲労」します。
その時休息を取らないと、人間と同じように「過労死」します。
均質なグループのなかで、もし、みんな同じように働き続けるとしたらどうなるでしょう。
働くアリたちは「疲労期」も同期してしまい、一斉に休息に入ってしまう可能性があるのです。
アリの巣内では、いろいろな仕事があります。
いつ敵が来て防戦しなければならないかわかりませんし、一時も休むことが出来ない「育児」の仕事もあります。
この時働き手がいないと巣が崩壊してしまう恐れがあるのです。
アリの巣内は、常に誰かが働き続けていなければならないのです。
しかし、さすがにアリ社会には「労働スケジュール表」などありません。
そこで、アリは、非常に巧妙なシステムでこの問題を回避しました。
遺伝的にわざとばらつきを持たせ、働き手のアリたちに個性を持たせたのです。
それぞれのアリたちは、周りの労働環境に応じて、働き始める時期が異なります。
いつも働く「腰の軽い」奴。
ただし、すぐ疲れるので休みはこまめに取ります。
仕事が大変になってくると、「よっしゃ、俺の出番だ!」と働き始める、なんとなく「頼りがいのある奴」。
最後の最後に土壇場に「切り札登場!」と出てくるヒーローみたいな奴、というように。
こうすると、「労働スケジュール表」などなくてもアリの社会は停止することなく回って行きます。
つまり、個々のアリで見ると「無駄」「エネルギーロス」と見える事でも、集合体としての「アリの巣」として考えるときわめて合理的なシステムと言えるのです。
アリ社会は人間社会にも通じる? 本当に働かないアリの存在
翻って人間の会社に当てはめて考えると、均質なエリートサラリーマンだけを集めた会社は、単純な「行け行け」状態だとめっぽう強いけど、いったん何かが起こるとエリート集団の弱さを露呈して、一気に崩れ落ちてしまう例をみなさん、嫌というほど見てきているでしょう。
虫の社会も、人間の社会も、こういうところは似ているのです。
さて、ここまでの話だと「個性は大事。働かないように見える奴も、実は重要な役割を担っている!」という、ある種の教訓譚で終わりですが、実はこの後に恐ろしい話があるのです。
ある種のアリの巣内において、本当に働かず、かつ、自分の子供だけを増やしていく「チーター」と呼ばれる「フリーライダー(タダ乗り野郎)」が侵入することがあります。
彼らは、まったく自分の事しか考えず、繁殖力だけは旺盛で、いつのまにか巣全体が「チーター」に変わってしまいます。
さて、そうなるとどうなるか。昔近くのコンビニに深夜勤務の茶髪のアルバイト青年が居ました。
素行良くなく、店の物を持ち帰りはあたりまえ。そのうえ、無知な店長を騙して、仲間をどんどんバイトに雇いはじめ、深夜、そのコンビニは不良バイトの饗宴の場と化してしまいました。
もちろん・・・そのコンビニはすぐに潰れましたよ。
結局、チーターに乗っ取られたアリの巣も同様に存続ができなくなり崩壊します。
巣を丸ごと消去することによってチーターの蔓延を防ぐ「自然の摂理」と言えなくもない事ですが。
で、人間界への教訓「個性は大事。働かないように見える奴も、実は重要な役割を担っている。けど、本物のフリーライダーも混じっている事もあるから注意してね。」チャンチャン。
(北川 実/理数専科塾塾長)