ADHD(注意欠如多動性障害)ってなに?
ADHD(注意欠如多動性障害)とは生まれ持った性質による特徴ですが、それは忘れ物が多い(不注意)、じっとしていない(多動)、待てない(衝動性)という三つの傾向からなります。
それは、子どもなら誰でも持っています。
その傾向がある程度以上強いと、現代の学校や社会生活では様々な問題として扱われることがあります。
具体的には、4-5歳を過ぎても、年齢相応の程度を超えて、1 気が散りやすく注意が様々なものに移る、持ち物や提出物などの忘れものが多い、2 じっとしているのが苦手で常に体のどこかが動いたり歩き回ったりする、3 待てないために話の途中で割って入ったり、友達との会話中に手が出る、人のものやお金をぱっと取ったりする、ということがあります。
ADHDは男の子では多動が目立つために、男の子に多いとされます。
ただ、忘れ物や待てない傾向は目立たないものの、女の子でもしばしばみられます。
小児期の有病率は5%程度と、珍しいものではありません。
また、最近ではマスコミで報道されることが多く、医療機関で診断・治療を受ける方が増えています。
ご家族や学校に子供の特性を受け入れる余裕が無くなってきているのかもしれません。
ADHDの人ってどんな感じ?
ADHDの小学生では授業中にじっとしていられないなどで私たちの外来を訪れる方が多いです。
10歳以降~中学生では、多動で歩き回ったりする人は少なくなります。
しかし、気が散りやすくて授業や勉強に集中できなかったり、忘れ物が多い、スケジュール管理が苦手、提出物や宿題が出来ないとか、いつもギリギリになるといった困りごとで気づかれることもあります。
また、衝動的な発言で、他人を傷つけてしまったり、他人のものをパッと手にとってそのまま…ということが盗癖などと言われることもあります。
年齢とともに症状は軽くなりますが、大人になっても半分以上の人は不注意を中心とした困りごとに悩まされることがあります。
ADHDに対する誤解とそれによる悪影響
ADHDの原因は注意機能や衝動の抑制などを司る脳の神経ネットワークにおける主な神経伝達物質のドーパミンとノルアドレナリンの機能不全によると考えられています。
したがって、ADHDは基本的に本人の怠慢や保護者の育て方によるものではありません。
しかし、ADHDの子供は「わがまま」「不真面目」などと、厳しく叱られたり差別的に見下されることがあります。
ただ、ADHDの場合は本人や周りがどう頑張っても、限られた時間内にある程度以上に改善することは非常に難しいものです。
周囲から酷い叱責を受け続けることで、自信を失い、投げやりになり、暴言や暴力行為、対人関係での孤立や、過食や自傷行為、ひいては不登校にまで至ることもあります。
ADHDの子どもと保護者の方へ
ADHDを疑う場合は、子育て相談センターなどの公的機関への相談、または小児の発達障害の治療が可能な精神科や小児科のご受診をお勧めします。
自分の子供がADHDということが判明した場合には、「努力不足」という見方を控えましょう。
学習に際しては周囲の刺激を減らして集中しやすくする工夫を行うことです。
また、日常生活の望ましくない振る舞いには、忍耐力のいることですが、叱責を減らし、本人にわかるようにその望ましくない理由を説明し、どうしたらその振る舞いを減らせるか落ち着いて具体的に粘り強く話し合ってください。
また、本人への要求のハードルを下げ、ADHDの子供にとって無理のない目標を設定し、その達成の度に本人なりの努力を認めてあげることです。
遅刻しなかったり、授業中に静かにしていられたりなど、普通のことでも賞賛してあげてください。
ADHDの子供が普通にしていられるようになったことは、本人には多大な努力を要した、本人なりの達成であるともいえるからです。
また、医療機関からはその原因となっている脳の神経伝達物質の機能を補い、子供生来のADHDの特性を緩和する薬を処方してもらうこともできます。
ADHDの子供を持つ母親の68.5%が「医療機関に行ってよかった」と回答し、ADHDと診断されたことで、母親の59.7%が「症状の原因がわかってほっとした」と感じていたという2016年の製薬会社のインターネットによる調査があります。
子供はADHDの特性があるからといって集団行動などの発達課題に向き合えないわけではなく、その特性は年齢とともに緩和されるし、特性を緩和出来る薬もあります。
親や教師は連携し、ADHDの子供の成長を信じ、その成長のペースを尊重しながら、冷静に粘り強く接してください。
ADHDの子供はその頭の回転の速さと機転から、周囲を楽しませる学校の人気者であることもあります。
また人懐こく、裏表がない人柄によって周囲から愛されることもあります。
ADHDは長所でも短所でもある一つの特性なのです。
ADHDの子供のプライドを保ちつつ、その独自のペースでの発達を促すことが出来るということを周囲は理解しておくべきです。
(鹿島 直之/精神科医)