特養入所希望者が減少
厚生労働省の発表によって、特養入所希望者が減少しているということが明らかになりました。
介護保険法が、重度の要介護者しか入所できないと改正されたことでこのような数字になったと分析されていますが、果たしてそうなのか、介護保険制度スタートから振り返り、違う観点で考えていきたいと思います。
そもそも高齢者は「できる限り居宅で」が基本
2000年4月より、介護保険制度がスタートしました。
それは、急激に進んでいく高齢化社会に対応するためのものでした。
もちろん、主に高齢者の介護を担うための制度ですが、本来はその介護を「住み慣れた自宅」で受けましょう、という主旨です。(介護保険法第2条第4項に「その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう配慮」と記載されています。)
しかし、実情は増え続ける高齢者を、「住み慣れた自宅」で支えることが難しい、という状況でした。
新たな選択肢「特定施設」
介護保険法で定められている施設は3つしかありません。
そのうちの1つが介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)であり、唯一の福祉系施設でした。
「住み慣れた自宅」で対応できなくなった高齢者は、施設へ入所希望することとなり、特養への入所希望者が殺到したという経緯があります。
一時期は数百人待ちが当たり前となっていました。
施設を作り続けることは、高齢者を支えるという意味では必要不可欠でありましたが、先ほど述べた介護保険制度の理念に反することとなります。
そこで、介護保険法上では「居宅扱い」となる介護付き有料老人ホームなどが増加し、高齢者の受け皿となってきました。
また、近年ではサービス付き高齢者向け住宅が整備され、人気となっています。
有料老人ホームなどは、入居金や月額費用などが高額で、限られた高齢者しか入居できない時期もありましたが、現在では多くのサービス付き高齢者向け住宅が初期費用不要や家賃も低額に設定しているため、入居しやすくなっています。
「特養定員割れ」の時代も
このように、自宅で介護ができない場合でも受け皿が多様化することで、必然的に特別養護老人ホームへの入所希望者が減少していることが考えられます。
これは、単に制度改正で起こったことではありません。
また、特別養護老人ホームと違い、サービス付き高齢者向け住宅などは、外部のサービスを使うことが可能であるため、入居者にとっては生活しやすい環境が作られていることも考えられます。
定額ですが入所待ちをしなければならない特別養護老人ホームよりも、若干費用は高いですが、即入居が可能なサービス付き高齢者向け住宅などを選ぶ高齢者も増えてきていることは考えられます。
私の知っている特別養護老人ホームでは、数年前までは入所待ちが当たり前でしたが、近年は定員割れをしていることもあるそうです。
本来の「利用者本位」へ
特別養護老人ホームの入所希望者減少は、その高齢者が「いかに」「どのように」生活していくのかを選択する道が増えたことで起こっているのではないかと考えます。
大変いいことだと思いますが、本来の「住み慣れた自宅で」で生活するという部分がおざなりにされていることも否めません。
「施設型居宅」よりも、「住み慣れた自宅」で生活を続けていくためにはどうすればいいかを考えていく必要があります。
(馬淵 敦士/介護福祉士)